新生活10

 母の支払いを街金と話をつけた。父にはその旨を伝えた。だが母がこれで終わるわけはないと言う気がする。
 営業をしていると携帯に常務から電話があった。今から戻ってくるようにと言うことだ。また資料を求められたのだろうか?原付で銀行の仮店舗に戻ると常務の机に行く。
「今から印鑑をもらってこい」
「決裁が取れたのですか?」
「ああ、これで開店は花ができた」
 私は電話を入れると必要書類とサインをもらいたいと伝えた。息子からは折り返しで3時に来てくれとあった。3時10分前に行くと社長がすでに戻ってきて笑っている。
「いい出会いだな?」
 息子が必要書類を運んでくる。
「実行が済んだら常務と食事をしないとな。これからは専務と仲良くしてやってくれ」
 サインをもらうと社長は部屋を出て行き、息子と作業をする。半時間ほど作業をして戻ることになって、
「あの横顔が女性っぽいですね?」
「いえ、初めて言われました」
 冷や汗が出た。確かにそういうようなことを言われてたのは初めてだ。ブログにもすみれとして顔を出している。
 戻ってくると書類を渡して融資の実行の用意をした。常務が側に来て、
「今日は早く帰れ」
と声をかけてくれた。
 8時に戻るとかえでが起きていてびっくりして迎えてくれた。それで今日の社長の息子の話をした。
「それは要注意よ。あまり親しくしないで」
「どうして?」
「男を愛する臭いがするよ」





テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

ページトップへ

新生活9

 母から何度も着信があった。父に携帯すると毎晩取り立てが来るようだ。それで父は店の2階に泊めてもらっている。そこまでしても離婚は考えないようだ。
 30億の融資は審査部長から役員会に上がった。それで常務と私が説明に出かけた。本店の帰りに母のいるマンションに寄る。3時過ぎだが若い男が2人インターホーンを鳴らしドアを叩いている。定期的に来ているのだろうか15分ほどすると下りていく。それからしばらくしてドアの隙間が空く。
「お母さん、話をしよう」
 部屋に中に入ると即席めんでテーブルが溢れている。私の記憶では病院を出てからも母の手作りの料理を食べた記憶がない。だが妹を連れて私に内緒で外で食べてきていた。
「なぜ返せないのに借りた?」
「妹をなぜ助けてあげないの」
「妹とは縁が切れていると思っている。だがこれを最後にするなら立て替えてもいい。もちろん返す必要はない。後は父と話してほしい」
 それだけ伝えると請求書の張り紙をポケットにねじ込む。その足でかえでのマンションを覗く。そっと鍵を開けるとパソコンを打つ音がする。
「大丈夫か?」
「どうしたの?」
「母に会ってきた」
「お金貸してあげて」
「悪いな。だがこれを最後にする」
「気にすることないよ。あのDVD凄いよ」
と会社からの報告書を見せる。現在でもう1千万の支払いが発生している。
「もう一つ撮っておこうかな。静江とひろし君のために」
 私はかえでにキスをすると銀行に戻る。






テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

ページトップへ

新生活8

 30億の融資稟議を上げた。副支店長と常務が揉めたが常務が押し切って審査部に送った。銀行内はこれで持ち切りだ。私は追加資料を審査部から求められえてこの会社の息子の専務のところを2往復した。常務も朝から本店に出ずっぱりだ。
 父からメールがあり平さんの店に9時に寄る。店には飛田を出てきた客と仕事が終わった女性が入り乱れ8人ほどがいる。父が炊事場からエプロンを畳んで出てくる。
「悪いな。忙しいのに」
「また母のことか?」
「街金から50万借りていて家に押しかけて来た。聞いたらまた妹に送ったようだ」
「親父はまだ頼母子の返済が100万残っているだろう?」
「そうなんだ。ともこが昼その話を聞いて用立てると言っているが断った」
「それがいい」
「だが」
「何とかするけど、しばらく街金の取立て親父我慢できるか?」
「私だけなら」
「すぐ返済したらまた借りるだろう。しっかり追い立てられてから返すよ」
 1本目のビールが空いて隣にいつの間にかともこが座っている。
「今日は代理とは?」
「延長が入ったので断った」
「うまくいっているのか?」
「それよりお母さんのお金の件は?」
「ともこが気にすることはない」
と新しいビールを頼んでともこと父のグラスに注ぐ。









テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

ページトップへ

新生活7

 常務と打ち合わせをしてここ3日提案書を作っている。だが今日は修正を言われて書き直している。10億の手形貸し付けとしたが30億にしろと×を付けられた。この融資で全店の融資最高額を調べて、30億を超える先が3社しかない事実にぶつかった。だが常務はだからこの銀行が伸びないのだと言われた。
 それで銀行を出たのは9時を過ぎていた。帰り道におかんの店を覗いたら暖簾の隙間から指定席に座っているともこと代理が見えた。マンションに戻ると炬燵にもたれたまま眠っているかえでがいた。一瞬嫌な予感がして揺り動かしてしまった。
「死んだと思った?」
「いや」
 最近は常に心のどこかにかえでが死ぬと言う恐怖が芽生えてしまっている。
「姉さんどうだ?」
「初めて恋をしたと喜んでいたよ。でも仕事は続けると言っていた」
「今日もおかんの店にいた。代理はバツ1だから心配はないけど、あれで猛烈社員だからなあ」
「姉さんも私と似たところがあるの」
「病気?」
「姉さんは病気じゃないよ。でもね、セックスに目覚めたようなの。私はひろし君と会ってセックスに目覚めた」
「かえですみれを作ったな」
 かえではパソコンを開く。
「このファイル覚えておいて。ここに遺言を書いている。思いつくごとに書き足している」
「やはり死ぬのか?」
「余命と言われてここまで生きてきた。すみれと別れるのは辛いけど、もう満足しているよ。だから悲しまないで」
「読んでもいいのか?」
「分からないことがあれば聞いてよ」
と言いながら私にもたれてもう眠っている。








テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

ページトップへ

新生活6

「姉さんもよかったねえ」
 ともこのことを話したらかえでが言った。
「朝ここに来てくれるから伝言ある?」
「知っていた?」
「いえ、夜にかかってきた。その彼にひろし君が会っていると」
「姉さんもよかったって言っておいて。ただ私がすみれだとは言わないで」
「それとDVD作ることにしたから」
「分かった。金を儲けてたらすべて買い戻す」
 手を上げてドアを出る。
 銀行に出ると代理は少し恥ずかしいのか先に原付で出て行く。今日は支店長の常務と同行だ。だから原付ではなく運転手付きの自家用車に乗る。あのテナントビルの社長と合わせることになった社長室に入ると、親を若くしたカニ体形の男がファイルを持って座っている。
「取引に出かけているので少し待ってください」
と名刺を出す。やはり息子だ。金融会社の専務の名刺を出す。
「社長からファイルを見てもらうようにと」
 私は受け取って常務に見せる。これは金融会社の会社資料だ。テナントビルの社長が兼務している。思ったより融資量が大きい。総借入が500億だ。競合している銀行の名前がある。常務の目がやはりそこを見ている。80億を融資している。その時社長がジャンバー姿で入ってきた。
「すいませんな。ビルの立ち合いでしてな。まず金融の方から付き合いできるかと?」
「この銀行の借り入れについて説明してください」
 常務が言うと、息子がコピーを取ってきて1時間説明する。
「提案書を持ってきますから時間をください」
 横にいる私が圧倒される常務の気迫だ。







テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

ページトップへ
プロフィール

yumebito86869

Author:yumebito86869
もう記憶の中で小さくなってしまているが、
小さい頃病院で隔離されていた時期があった。
その時隣部屋にかえでと言う毛糸の帽子を被った少女がいた。
童貞を失ったのもかえでだ。
何もかもう失った時、私はすみれとして彼女と再会した。
また短い時間だったが私の中で一生光り輝いている。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR