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別れの時9

 朝食の後鞄に入っていたズボンとセーターを着る。鞄の中には丁寧に画帳を仕舞い込む。それからかえでの部屋に行って本棚に交換絵物語を返す。最後のページには元気に出てくるのを待っていると眠り姫に語り掛けている。帰ってきたらこれを見てくれるはずだ。
 部屋に戻ると母がもう立っている。ジャンバーを着せられ病院の門を出る。
「タクシーに乗るわよ」
「あそこの駅から電車に乗りたい?」
「仕方ないわね」
 母はそれでもしぶしぶ商店街を歩き出す。このアーケードも非常階段から見えた。私は階段を上がると駅の先頭まで走る。ここから非常階段が見えるのだ。非常階段には寒いので誰も出ていない。かえでの個室のもまだがあるだろうか。私は何度も何度も手を振る。
「行くわよもう」
 私は聞こえないように手を振っている。
「誰かいるの?」
 それに答えないでひたすら手を振り続ける。窓の中にいるかえでが見えたように思った。見ようとしたらなんでも見えるのよ。その声が聞こえたようだ。
「行っちゃうよ」
 母が追い付いてきて腕を引っ張る。橙の電車が遠ざかる。
 いつかまた会いたいよ!いつの間にかぼろぼろと涙が溢れてくる。そこにかえでの笑い顔が見えた。






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テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

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yumebito86869

Author:yumebito86869
もう記憶の中で小さくなってしまているが、
小さい頃病院で隔離されていた時期があった。
その時隣部屋にかえでと言う毛糸の帽子を被った少女がいた。
童貞を失ったのもかえでだ。
何もかもう失った時、私はすみれとして彼女と再会した。
また短い時間だったが私の中で一生光り輝いている。

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