銀河鉄道10

「気を付けてね?」
 静江がマンションで送り出してくれる。今日はかえでの要望で電車で病院に送る。私はすみれの格好をしている。これもかえでの要望だ。ゆっくり歩いて天王寺から環状線に乗る。
「大丈夫か?」
「今日はいつもよりすっきりしている」
 病院のある駅に降りるとかえではホームの先にあるベンチを指す。
「ここから桜を見るよ。覚えている?」
「このベンチ?」
「あの非常階段から見えるの。ひろし君が退院した日もあそこから見てたの。何だか私だけ取り残されるようで涙が出た」
「あそこに桜が見える。まだ3分咲だなあ」
 私が指を指す。だがかえでの視線はその指を追っていない。目が虚空を見ているようだ。
「わあー満開だ!」
 私は彼女の肩を抱き寄せる。こういう時は倒れることが多いのだ。やはり電車で来るのは無理だったのだ。
「私感謝しているの。最後の1年をすみれと暮らせたこと。本当はずっと病院の中で何も残せず死んでいったと思うの」
「どうして最後と言うのだい?」
「無理矢理退院をした時、担当の医師に命の保証はないと言われていた。それでいつ死んでもいいと思って生きてきた。それがすみれと会ってずっと一緒にいたいと思うようになった。でも我儘なのよね?もうすっかり寿命は来ているのよ」
 かえでの体が風に揺れているようだ。
「銀河鉄道が迎えに来たわ」
「すみれも乗せて行って」
「だめ、すみれはもっと私の小説を書いてくれなきゃね」
 もう瞳孔が開いている。
「小説を書き続ける」
 体がふわりと軽くなる。私にはかえで銀河鉄道に乗り込んだのが見えた。
「かえでのために満開に咲いた。いつかここに迎えに来てくれるのを待っている」
 銀河鉄道の窓からピンクの毛糸の帽子を被ったかえでが手を振っている。
「さよなら」

    《完》

これは最初から終わりのイメージがありました。
こういう作品は私の作品では珍しいのです。
だから思ったより早く終わってしまいました。
これは私の中にもう夢のように残っている記憶に、
忘れたように花が咲きました。
この続きはこの小説を書くきっかけになった『ふたり』もよろしくお願いします。

この物語を書き終えて一月になりますが、橙の電車がたびだび夢に現れてきます。
まだ書き足らないのだろうか?



     夢人





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テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

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コメント

No title

あけましておめでとうございます。
いつも足跡頂きありがとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
お話楽しみにしております。


BY YUKI

No title

あけましておめでとうございます。
この物語はもう少し長く書きったかったのですが、
終わりのイメージが強く・・・。
今年もよろしく。

     夢人

こんにちは

はじめまして!あるブログを拝見していたら、このブログに出会いました。私もブログを開設しています。「鬼藤千春の小説・短歌」で検索できます。一度訪問してみて下さい。よろしくお願い致します。

No title

訪問ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。

     夢人
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プロフィール

yumebito86869

Author:yumebito86869
もう記憶の中で小さくなってしまているが、
小さい頃病院で隔離されていた時期があった。
その時隣部屋にかえでと言う毛糸の帽子を被った少女がいた。
童貞を失ったのもかえでだ。
何もかもう失った時、私はすみれとして彼女と再会した。
また短い時間だったが私の中で一生光り輝いている。

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