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秘密基地2

 蝉の声がもの悲しい。朝は涼しい風が吹き込んでくる。いつものように朝食を済ませると非常階段に陣取る。かえでとの交換絵物語はもう私だけの物語になっている。病気になったかえでの横でいろいろ話をしている絵が続いている。もう3か月になるか。毎日一番にかえでのベットを覗きに行く。何よりも恐ろしいのは本棚が整理されることだ。私の部屋も1人そうしていつの間にかいなくなっていたのだ。
「彼氏」
 背中から声を掛けられて振り向く。かえでの隣のベットの姉さんだ。
「呼んでいるよ」
「へえ!」
 私は小走りにかえでの部屋に行く。
 小さくなった水色の毛糸の帽子を被ったかえでだ。
「帰ってくれたよ」
「待っていたよ」
 私は手に持っていた交換絵物語を布団の上に置く。彼女は黙ってあの止まっていた日から頁を繰る。
「秘密基地に行ってくれるのね?」
「ああ」
「私は森から迎えに来た魔女の手を懸命に振り払った。まだやり残したことがあるの。でもまだ歩けないの。眩暈がする」
「お母さん来てたよ」
「会ったわ。結婚すると言っていたわ。それと私はおじいちゃんのお墓に入ると言っていた」
 何という母だ。
「もう余命の時間はとっくに過ぎている。でも私はやり残したことするまで行かないよ」
 私はそっとかえでの手を握った。冷たい手だ。






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テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

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コメント

No title

どこか物悲しい。
どこか空虚な印象を受ける小説ですよね。
そこが素晴らしいところでもあるのでしょうが。
人に夢とかいて、儚い。
その名前がふさわしい小説で読んでいて、とても勉強になります。

また、寄らせていただきますね。
場末で小説を書いているLandMです。
よろしくお願いします。

No title

ありがとうございます。
これは記憶の奥の幼少の頃の入院時代を書きました。
この頃は毎日橙の電車をクレヨンで描いていました。
辛い時はこの頃に帰ろうとしている自分がありました。
また遊びに来てください
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プロフィール

yumebito86869

Author:yumebito86869
もう記憶の中で小さくなってしまているが、
小さい頃病院で隔離されていた時期があった。
その時隣部屋にかえでと言う毛糸の帽子を被った少女がいた。
童貞を失ったのもかえでだ。
何もかもう失った時、私はすみれとして彼女と再会した。
また短い時間だったが私の中で一生光り輝いている。

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