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思い出作り7

 かえでがデパートに行って土産を買って父に渡した。父は翌日に中国に立った。親子の人形を買ったようだ。だが歩き回れるが夕方になると疲れるようで私が帰って来るまで寝ているようだ。私もようやく融資の決裁をもらって実行をした。長期融資ができると一人前と言われる。
 珍しく支店長が酒を誘ったが用事があると断った。いつものようにビールを買って部屋に戻る。
「只今!」
 部屋を見るとかえでの姿はない。もう8時になるのにどこへ出て行ったのか?するとドアが開いてかえでが買い物かごを持って戻ってきた。
「ごめんね、すき焼きが食べたくなったの」
と言うなり用意していた鍋に野菜と肉を盛り上げる。1杯だけお酒で乾杯した。
「何か嬉しいことあったのか?」
「ええ」
 くすくすと笑っているばかりだ。
「でも怒らないことを約束してください」
「怒る?そんなことはない」
「今日銀行に行って静江さんと夜に会う約束をしたのです」
「静江?」
「彼女私がブログを書いているかえでと知っていたわ。それで私はひろし君がすみれと教えた」
「そんな馬鹿な!」
「2時間も話をした。本当の話をしても彼女はひろし君を愛しているって」
「どうして?」
「私は私がいなくなった後が心配なの。そうでないとお父さんのように」
「いいのか?」
「今日は久しぶりに抱いてね」




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思い出作り6

 かえでが散歩できるようになった。それで父はここ1週間弁当を作って持ってこなくなった。
「お父さん、11月に中国に行くと言ってたわ。複雑じゃない?」
「いや、なんだかほっとした」
 これは本当の気持ちだ。父と母を見ていて何となく父が可哀想に思っていたのだ。そういう私もかえでに会っていなかったら同じだったろう。
 今日は8時におかんの店に1月半ぶりに覗く。それもすみれとして行くように約束させられた。それで7時半に戻ってきて久しぶりの化粧をする。
「少し顔が白くなったな?」
「すみれは黒くなったわ」
 そう言い合いながらおかんの店に入る。
「どうしたの?ひろし君も来ないし、かえでも」
「二人とも仕事が忙しくなったの」
 私が説明する。
「わあ。どて懐かしい!」
「ビールは控えめでねかえで?」
「すみれが私の分も飲んで?」
 常連が二人を見詰めている。おかんはその目を監視している。とくに不良の親父が一番危ない。
「雑誌社から返事が来たけど読んでみる?」
とコピーした紙を渡す。すみれの小説1号が本になるようだ。挿絵はかえでとなっている。
「おめでとう!でも私が先輩よ」
と言ってキッスをする。さすがに店の中は大騒ぎだ。









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思い出作り5

 最近は静江との昼ごはんは控えている。だが今日は強引にグリルに呼び出された。彼女は薄化粧をするようになっている。それで妙に大人っぽくなっている。営業の男性が告白して断られたという。
「最近このブログのファンになってるんです」
 彼女がコーピーしたブログを見てドキリとした。何とかえでのブログだ。最近はかえでとすみれのブログとなっている。私のブログをここに引越しさせたのだ。だからプロフィールの写真は二人の黒のTバックで抱き合っている写真をかえでが貼った。
「エロいのを見てるんだね?」
「エロくなんかないわよ。二人とも大好き!」
「どちらが好き?」
「どちらも好きだけど、私はすみれさんが大好き」
 何だかうれしい気がした。
「それとこのかえでさん私が通帳を作った人じゃないかと思っているの」
「まさか!」
 夜銀行に戻ると串カツ屋の会長の紹介の酒屋の建て替えの融資を書いている。これは本来地域的は代理の仕事がだ私に譲っている。銀行では融資は代理がほとんど扱うようだがこの代理はずっと預金畑だ。今度は繋ぎ資金ではなく長期資金だ。それに店と倉庫の他は賃貸物件になっている。
「10年じゃなくて7年で済まんか?」
 古い人は10年を嫌う。だが返済余力を見るとどうしても10年だ。支店長はそれでも判を押して帰る。私は8時には店を出る。最近はかえでは9時まで起きていれる。たくさん話をしておきたいのだ。






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思い出作り4

「親父いいか?」
 頼母子の集金に寄った時炊事場の父に声をかけた。父は最近は店のおかずも作るようになっているようだ。家を出てスーパーに寄ってから店に出る。だからその食材でかえでの食事を作っている。
「これかえでからだ」
 封筒に50万を入れている。
「これは?」
「中国に奥さんと娘がいるようだな?」
「・・・」
「これで会いに行けって。母は知っている?」
「いいや。かえでさんに初めて話した」
「どうして?」
「彼女を見ているとなんでも話したくなる」
「受け取ってくれ?かえでのしたいことは何でもさせたいんだ」
「分かっている。でももう少し元気になってからにしたい」
 今日は8時には銀行を出た。酒屋によって缶ビールを半ダース買ってマンションに戻る。
「お帰り!」
 珍しくかえでが起きている。
「お父さんに渡した?」
「ああ、だけど元気になってから行くと言ってたよ」
「だったらどうしても元気にならなくっちゃ!」
 缶ビールを開けてコップに入れる。おかんの店に行かなくなって1月にはなる。かえでが起き上がってコップを差し出す。
「今日は飲みたい気分よ」
「いいのか?」
「うんー、美味しい!」
「美味しいっていいことだな」
「そう、すみれのあの小説本になるようだよ。返事が来た」











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思い出作り3

 私はあの融資で今年の新人賞をもらうことになった。それで今日は本店の会議室に朝から呼ばれた。支店長が自慢そうに付き添う。融資の判を押したがらなかったのに、まるで自分が賞を採ったように役員に挨拶しまくっている。この人はこうして年を取っていくのだろう。
「コーヒーでも飲まないか?」
 今賞を手渡してくれた常務が肩を叩く。
「君は銀行員になりたくて?」
 大きなテーブルの椅子に常務は腰かけて聞く。
「私は小さい頃病院に入っていました。母からは見放されたままようやく浪人して私大を出て、ひっそり生きようとして生まれた大阪の街に戻ってきました。何の夢もなく希望もなく・・・」
 常務は黙ってコーヒーを飲んでいる。
「それがここで失っていたものを取り返したのです。今はそれで精一杯です」
「そうか。その決着がついたらまた話そう。平さんはあの彼女と出会ってから全く変わったのだ。それまではただのやる気のない男だった。だが彼女に店を持たせたいと頑張った」
 そうだ。私も時間のないかえでのために変わらないといけない。本店を出るとわざわざ環状線に乗った。左側の窓に子供のように顔をくっつける。窓の向こうに病院の非常階段が見える。小さな女の子が手を振っている。
 かえでは最後の大切な時間で私に会いに来てくれたのだ。私はかえでの最後まで精一杯彼女ために生きよう。そう思うと駆け足て戻りたくなった。
 部屋に入るとパソコンを開いたままかえでは眠っていた。横に座るとかえでに凭れてパソコンを覗く。これは送信した後だ。送り先はかえでが本を出している出版社だ。すみれとかえでが出している童話の出版の話だ。これは聞いていた。OKの返事と合わせて私の古い小説が送られている。



 




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思い出作り2

 父が毎朝訪ねてくるようになった。8時に朝ごはんと昼ごはんと夕食まで拵えてマンションに来る。まるで娘に仕える母のようだ。父にはかえでのことは話した。
「会社の登記は済ませたけど次は?」
 窓際に布団を立て掛けてかえではもたれている。病院に行った日より元気にはなっている。父がかえでに登記を見せている。
「雑誌社の口座の変更を頼みます」
 この会社はかえでになっていて取締役に私が入っている。通帳も父が私の銀行で作ったようだ。口座には何と祖母の遺産も入れて5千万ほど入っている。
「あまりパソコンをしないように」
と私が銀行に出かける。父は10時半まで側で手伝いをしているようだ。
 夜は父は来ない。私が戻ってくる頃にはかえでは壁に凭れて寝ている。体力がなくなったのだ。私は戻ってくるとかえでの横に座って缶ビールを手に食事をとる。それからパソコンを開く。かえでが昼の間かなりの絵を描いている。ほとんど私の書いていた過去の小説の挿絵が出来上がっている。
「ひろし君」
「目を覚ました?」
「お父さんね、初めて昔の話したよ」
「昔?」
「お父さん、中国にいた話は聞いたことない?」
「聞いたことはないな」
「結婚するまで中国にいたそうよ。親の危篤で戻ってきて家を継がされたそうよ。中国に奥さんと娘がいたって。私が生きている間にお父さんを中国に行かせてあげて。お金は通帳から出して」
「ああ」
 答えた時にはもう眠っている。








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思い出作り1

 真夏が過ぎかえでが寝込んだ。ここ10日間桔梗にも出ていない。
「私がやるから銀行に行って」
 かえでの下着が鮮血で真っ赤だ。今まで何度かあったが今度は量が多い。下着を脱がしてお湯を染ませたタオルで丁寧に膣から流れた血を拭き取る。かえでは嫌がるがもう拭き取る力がない。人形のように寝ているしかない。
「今日病院に行く」
「嫌」
「ダメだ!」
 今までにない私の強さにかえでが驚いている。私は病院の予約を取ってタクシーを呼ぶ。
「これだけは約束して?」
「病院には行くんだぞ」
「もう入院は絶対しないから」
「分かった」
 病院に着いてすぐに診察室に通される。私は9時から1時まで待合室に座っている。1時には別の部屋に私だけ通される。
 昔秘密基地に入っていたあの医師が部長になっている。
「彼女も君もこことは縁が深いな。かえではすでにここでは余命なしとなっている」
「それで?」
「治療の方法がない。閉じ込めておいても可哀想だ」
「死を待つだけと言うのですね?」
「精々いい思い出を作ることだな」






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それぞれ12

 今日は銀行に祖母が死んだと休暇を出した。だがこれは嘘でかえでの老人ホームに入っていた祖母だ。私も病院に入っているときよく顔を見た。私はネクタイを締めてかえでと早く起きて泉州まで行く。10時には老人ホームの会議室に入る。中に入るとかえでは顔見知りがいないようで私の横に座る。
 20分して見覚えのある母親が見たことのない年配の男と入ってきた。
「あれ、4人目の夫よ。今度は15歳も上だそうよ」
「彼が病院で一緒だった?」
「そうよ。偶然に出会った」
「どう?一緒に住まない?主人がかえでを気に入っているわ」
「母の男に抱かれるのはもうごめんよ」
 かえでの話では3人が3人ともかえでを抱いたようだ。ひょっとしたら母がけしかけているようだとかえでは言っていた。話をしていると黒いスーツを着た男性が側に来た。彼が知らせてきたようだ。
「お母さんは遺言を書いておられていました」
と遺言を二人に見せている。私はかえでの横で相手の男性を見ている。勤め人と言う感じではない。今かえでの母は雇われママをスナックでしているという。
「なぜなの!」
 祖母は昔持っていたスナックを売って老人ホームに入ったようだ。その金がまだ1千5百万残っていたようだ。葬式代と墓代を残してすべてかえでに譲ると書かれている。
「私も死んだらひろし君しか財産を残さないから」
と言うと私の腕を引っ張って外に出る。
「すっきりしたわ。これで私の唯一の縁はひろし君だけ」








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それぞれ11

 7時半に来るようにと平さんからメールが入った。私は急いで集金の集計をして袋に詰める。静江たち女性陣が帰って支店長が店を出る。7時10分私が慌てて裏口から出る。急ぎ足で飛田の表通りを抜ける。5分前に着いたようだ。店の端で父とかえでが何やら書類を渡している。
「悪いこと相談してないか?」
「お父さんに言う言葉ではないよ」
 かえでが睨む。父は慌てて書類をまとめて炊事場に入る。表に車が止まった音がしてドアが開く。常務が一人入ってくる。平さんが迎えに出ている。
「ここは若い子が増えたな?」
「紹介するよ」
「昔はよく来たな」
 常務がかえでを指名したらどうしようと思っている。だが常務は私に握手を求めて席に掛ける。
「あの串カツ屋君の店の柱になるぞ。あの店が伸びないのは柱になる取引先がないからさ」
 ビールをママが運んでくる。
「どうや。金融は?」
「ボチボチや」
 二人はやはり同期だ。金融の話もしているようだ。常務は業務推進部長だ。
「今度はブロックごとに競争をやる。君の店は小型店いや閉鎖候補グループだ。7店のうちどんべを廃店をする」
「早く辞めてよかったな」
 平さんと常務は正反対の性格だが気は合う。2時間かっきりで常務はタクシーでまたミナミに走る。私の融資を祝ってくれてようで支払いは常務が払った。入れ替えにかえでが2人で入ってきた。今日はここで飲むと決めていたのだ。
「彼女フィリッピン。可愛いでしょ?まだ17歳よ。この近くのアパートに5人で住んでいるよ」
「かえでの恋人?」
「彼女なの」
と二人で撮った写真を見せる。
「凄い美人!」




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それぞれ10

 朝10時に8億の融資実行の日支店長が自分が決裁したかのように応接室で会長と握手する。両替配達を済ませて戻ってきて汗を拭いながら私は司法書士と登記の確認をする。応接は開かれていてカウンターにかえでがどうしたわけか静江と話している。彼女は口座を別の銀行で持っている。
「実行のお金入れたよ」
 静江が通帳を渡す。串カツ屋の株式会社の通帳は初めて作った。今までは会長の個人口座だけだった。小さな声で、
「凄い綺麗な人ね?」
 これはかえでを指しているようだ。初めてかえでと静江が会った。かえでには静江の話は同期だと話している。
 夜おかんお店にかえでがいつもより遅く10時に来た。
「最後に常連が入ったの」
 彼女の客はほとんどブログから来る常連ばかりだ。古いブログではエッチな会話を載せていたが、最近はコメント返しをしないと宣言している。
「可愛い子ね?」
「どうして来たんだ?」
「ひろし君の初融資を見たかったし、私のお金こちらに移し替えることにした」
 最近はかえでは身の回りを整理し始めたような気がする。
「彼女ひろし君を見る目愛してるわよ」
「いや、両替を手伝っても立っているんだよ」
「将来結婚したらいいよ」
「なぜそんなこと言うのだ」
「だって私もうそう生きられないから。バトンタッチしないと」
「だから籍を入れよう」
「籍も入れないし子供も作らない」






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それぞれ9

 かえではもう私が銀行を辞める気でブログですみれと専業で漫画描くよと言っている。二人の絵物語は課金にしたが思わず人気だ。これは従来の漫画と言うより私の文章を前に出した童話の世界になっている。かえでのパソコンの中にはすみれが書いている小説の挿絵がどんどん挿入されている。
「今夜は退職祝いをおかんの店でしようよ」
 この調子で朝送り出された。それで妙に融資の件は腹が括れた。本店で否決されたらされたら辞表を出して会長に謝りに行こうと決めた。
 午前中に午後の分も頑張って集金を済ませる。3時から1時間半を串カツ屋のために空ける。代理は融資の件から顔を合わせようとしない。一人で謝りに行くしかない。静江とグリルで約束のように1週間に一度昼食を奢る。いつものように私が早く戻ってきて両替の袋を鞄に詰める。
「おい、融資部長からだ」
 次長が呼ぶ。あまり何度も稟議が出るので判を横に押して次長と支店長が本店に稟議を送った。次長が受話器を差し出す。稟議の説明ができないのだ。
「この融資期間1年は守れるだろうな?」
「はい。建物の解体と表示登記が済めばメインバンクが長期融資で」
「決裁だ」
「融資してもいいのですか?」
「そうだ。この件では常務にお礼の電話をしておくんだ」
 常務?教えられた常務の内線に入れる。
「君か?よくできていた。平さんの後輩だそうな?また夜の平さんお店で飲もう」
 夜おかんの店でかえでに伝えると、
「なんだ」
と失望した声を上げた。でも握手を求めてきた。




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それぞれ8

 支店長は融資に二の足を踏んだ。リスクを負いたくないというタイプだ。銀行員に多いタイプだ。そうして定年前にようやく小型店舗の支店長となった。代理も歯切れが悪い。それで私の名前で稟議を上げることになった。それでこの3日間は9時半まで残業している。
 今日は次長に稟議の判も押されずに机に戻されてきた。
「断るならもう限界だ。謝って来い」
 次長も輪をかけて新しいことを嫌う。書類を鞄に入れて仕方なく集金に回る。さすがに一度串カツ屋の会長を訪ねようとも考えた。昨夜その話をかえでにしたら辞めたら私が食べさせてあげると言われた。これでは情けない紐だ。
「どうした暗い顔をしているぞ」
 平さんが入ってきた私の肩を叩いた。平さんは退職してから逆に元気になっている。それで今回の融資の話をした。
「会長が融資の話をしたのは初めてやな。書類を見せてくれるか?」
 平さんが書類を見ている横に父が集金から戻ってきて洗い場に入る。かえでは何度かこの店で父と会っている。かえでは父が気に入っているのか店に来てほしいと言っている。
「一度本店の常務に話してやろう」
「常務?」
「同期なんだよ。同じ店で働いたこともある。この店にも時々飲みに来るわ」
 その夜また稟議を書き直して次長の机に置いて帰る。
「どう?」
 おかんの店に行くと先に来ていたかえでがそう聞く。
「少し意地になってきた」
「今日抱いてあげるよ。そうお昼にお父さんと話をしたよ」
「まさか?」
「下の口の話じゃないよ」




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それぞれ7

 父が初めての給料で家賃を払った。借りていた金も少しずつ返すという。今は暇な時間は集金をしているそうだ。どうも平さんは銀行の社員にも金を貸しているようだ。それにかえでの言うのは飛田の女の子もかなりお客がいるらしい。
『なぜ保証人断るの?』
 10年ぶりの妹の声だ。私は妹の結婚式も呼ばれていない。彼女の中では兄はいないのだ。独断独走で走ってきたが、どうも結婚相手は失敗したようだ。いい大学を出た同士だが夫は社会的ではなさそうだ。妹を専業主婦にしたのはいいが研究所を辞めてしまった。そこから強引にお好み屋を思いついたがまた夫には合わない。辞めてぶらぶらして母が店に入っている。
『私たちは病院に入院した時から兄弟ではなくなったのだ。母を巻き込むな』
 原付を道路脇に止めて携帯を切る。
 これから通天閣の串カツ屋の会長と営業のリーダーの代理を合わせる。この代理は平さんの歓送迎会にも来ている。裏通りで待ち合わせをしてビルに上がる。
「長い付き合いだがそちらで借りたことはないが、今回は出物の建物が出てのだ。メインバンクは前回借入してまだ半年で融資はしぶられている。どうだ?」
 平さんは融資をしない。だから話があれば代理が出てくる。
「うむ」
 書類を見て代理が唸っている。金額が8億と大きい。
「建物を壊して立て直すときは付け替える約束はできている。1年あれば?」
「やってみましょう?」
 私は代理に声をかける。
「事前稟議を上げます」
と代理も頷いた。
 帰り代理がこれはお前が書けよ。と肩を叩く。






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それぞれ6

『あんた親の恩を忘れている!』
 朝一番叫ぶように携帯がかかってきた。母だ。携帯を掛けて来たのは初めてだ。父が断れなくて携帯を教えたのだろう。10分ほど喚き散らして切った。
「大変ねひろし君も」
 かえでが布団から顔を出して言う。病院で母を見ているからよく分かるようだ。最近はセックスを私の方が控えている。やはり見ていて調子が良くないのだ。
「店は当分休んだら?」
「それは言わない約束よ。私は精一杯余命を頑張る」
「分かった」
 最近かえでは朝私と同じに起きて朝食を食べる。それから寝ずにブログを描いている。私の方が追い付けないでいる。なぜかひどく急いでいるように見える。
「昨日店でお父さんに会ったよ」
「ああ、店で雇ってもらったのだ」
「たまに抱いてあげようかな。ひろし君が抱いてくれないから」
「ダメだ」
「それと雑誌社から今の新作課金にしたらどうだって?」
「課金?」
「有料にするって」
「見てもらえるのかなあ?」
「大丈夫だって」




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それぞれ5

 無事に平さんが退職となった。私は原付に乗って集金に回る。すみれとかえでのコラボ漫画もスタートして1週間になる。今まで以上のアクセスが上がっている。結局いろいろあって平さんの歓送迎会は行われなかった。それで今日内緒で有志だけのささやかな飲み会を飛田の平さんの店でやる。
 世話人代表は掃除のおばさんで外勤から3人、内勤から2人しか集まらなかった。7時からだが私は30分遅れて店に着いた。私の席は静江が確保している。それでも平さんは気を使って貸切にした。私を待っていてくれたのか乾杯のビールが今出てきた。もう父がワイシャツ姿でビールを運んでくる。平さんは約束を守ってくれたのだ。
「これは嫁だ」
 初めて平さんが頭を掻いて紹介した。へえ!と言うため息が漏れる。出世でくたびれたサラリーマンより幸せっだように思う。女将が子供連れて席に着く。
「なんかいいな」
 静江が私に相槌を求める。私は皿を運んできて下げる父ばかりが気にかかる。何とかなればな?
「どうですか?」
「もう1週間になるが慣れたようやな。朝11時から8時まで入ってもらっているわ。店が慣れたら間に集金を頼む」
 平さんに酒を注ぎながら話す。
「私の仕事手伝うなら金出すよ」
「いえ、私は頼母子にはかかわりませんよ」
「分かった」
 10時まで飲んだ。父はもう姿が見えない。遅くなったので私が静江を送ることになった。もうバスがなくなっているからタクシーを捕まえようとしたが静江が歩くといい張った。松虫の家の近くまで来ると彼女から唇を吸ってきた。





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それぞれ4

 久しぶりに静江をグリルに誘う。両替の手伝いに対してお昼を奢ると約束している。
「次長が私に串カツ屋の集金を聞いていたよ」
 もう集金は私に代わっている。私にも容疑をかけているのだろう。
「ね、日曜日映画行かない?」
「いや、用事がある」
 彼女は銀行では人気がある。こうしてグリルに行くだけでいらぬ噂をたてられている。別れると両替を届けに回る。4時には父とマンションで会う。
「迷惑かけたな」
 缶ビールがテーブルの上にある。これはかえでを抱いたことへのお詫びのようだ。
「彼女もよかったと言っている。ところで今日は仕事の話だよ」
 簡単に平さんの説明をした。明日にでも行くという。缶ビールの横に手紙がある。私は手に取ると中を読む。母からだ。お好み焼き屋は赤字続きで1千万の借り入れを銀行から借りるので私に保証人になれということだ。封筒の中に融資申込書が入っていて保証人欄に印が入っている。まことに母らしい。父は黙って申込書を破る。
 おかんの店には9時半に行く。またおかんの親父がかえでの横にいる。おかんが追い払うように席を開ける。最近は早く終わるようになっている。かえでは鞄の中からノートパソコンを出してくる。
「提案よ。次の作品は二人でやらない?」
「絵は描けないよ」
「すみれとして文章を書くの。絵は私が描く。昔やったような交換絵物語よ。私のブログにすみれも入れるようにしたわ」
 かえではプロフィールのところに二人で撮った黒のTバック姿を貼り付けている。





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それぞれ3

 昼に支店長室で本店の年配の検査役と面接だ。朝は平さんが半日面接を受けていた。
「彼は否定しているが君はどうだ?」
「私は引き継いで間がないのでよくわかりません」
 結局これが私の答えだ。だが感じているものがあるがそれを口にすべきではないと思っている。終わると昼を抜いて自転車で飛田の平さんの店に走る。
「どうだった?」
 平さんが椅子に掛けてお茶を飲んでいる。
「支店長も、検査役も取引先に会って確認する気はありません。何しろ大口先ですから」
 ヒヤリングだけで取引は切れ賠償金を求められるかもしれないのだ。あくまでも内々のことで解決したい。
「君には真実を話すよ」
 彼女が心配そうにコーヒーを入れてくれる。店には客はいない。
「串カツ屋の会長の通帳から始め毎月5百万をこちらの頼母子の支払いに使っていた。会長は残高しか見ない。それがいつの間にか2千万になった。だが去年からもう繋ぎ資金は必要ではなくなった」
 それも調べて分かっている。この店を買って苦しかった時期は終わっている。こちらの頼母子も手持ち資金で賄えるようになり、小口の貸金も始めている。
「要求はあるか?」
「今この店でアルバイトの店員を募集していますね?」
「ああ、店の洗いと私の方の集金をしてもらおうと」
「親父を雇ってもらえませんか?」
「履歴書を持ってきてもらおうか?」
 話が終わった時に女の子が3人入ってきた。その一人が楓だ。かえでは気づいているが声をかけない。







 

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それぞれ1

「ちょっと来てくれ?」
 朝出がけに支店長から呼ばれて2階に上げる。その部屋に内部責任者の次長が座っている。テーブルの上に通帳の記帳履歴が並んでいる。串カツやの会長の通帳と飛田の小料理屋の女将の通帳が並べたれている。
「とくに5年前からここからお金が1千万~2千万出て同額1か月後にこちらから戻されている。係わりがあるのか?」
「全く別人の通帳です」
「何のお金だ?」
「ただ集金をしているだけで」
 私は嘘をついた。平さんはもう10日後に退職する。それだけ言うと両替に出る。自転車をこいでいると横に原付が着く。
「次長が通帳を調べていたが?」
「それを聞かれました」
「話した?」
「いえ」
「ならいい」
 それだけで離れていく。ふと自転車を止める。父に似ている?阿倍野の交差点でビラを配っている。こちらに落ちているビラを見るとピンク広告だ。もう私のマンションに泊まって2か月になる。家賃はこちらが払っている。だから相当な金欠だ。かえでが気にしておかんの店の支払いはしてくれる。
「親父コーヒーを飲もう」
 声をかけて喫茶店に入る。
「母から送金はないのだろう?」
「・・・」
「今の仕事じゃ食べれないだろう?仕事を頼んでみる」
 そう言って1万札を置いてコーヒー代を払って出る。







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それぞれ2

 今日は女装をして9時におかんの店で合流する。それで仕事を7時半で上がった。かえでの公休日だ。かえでは休みには昼までゆっくり寝て買い物に出かけ服を買い込んでくる。かえでにはマンションによってジーパンを取ってきてもらう。昼の間は父は外でビラを配っている。
「ひろし君来ないね?」
「女同士の時は恥ずかしがって避けるのよ」
 おかんにそう返事して時計を見る。30分過ぎている。
「ひろし君姉さんの友達と?」
「付き合っているようね?」
 かえでが髪を乱して入ってくる。
「遅かったね?」
「起きるの遅くて買い物をしたらマンションによる時間遅くなって」
と言ったきり口をつむんでいる。言いたくないことがある時の癖だ。
「怒らない?」
「うん」
「お父さんと部屋であった。そしたらお父さん一人でオナニーにしていた。それで私入れてあげた」
「入れた?」
 言葉が出ない。
「怒った?私お父さんと話できて嬉しかった。20年ぶりだって言ってたよ」
「ありがとうと言うべきだな?」
 このシーンがかえでの漫画にあった。





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すみれ11

 かえでは病気のことは話さない。でも顔色は戻った。今日は二人でかえでの出版記念に出かける。もちろん私はすみれとして一緒に行く。環状線天王寺からホテルのある京橋で降りる。私もそうだがかえでもネットではずいぶんファンがいるようだ。今回の作品はすみれとかえでの物語だ。
 会場には若い人とくに女性が50人ほどいる。かえでが入口で本にサインをする。その後かえでが中央の席で物語の話をして質問に答えている。バイキング形式で飲み物も出ている。同業の物書きが挨拶をする。かえでが私を紹介する。
「この作品のモデルなんです」
「わー!綺麗な人」
 物語は私も読んだが私は男でなくレズの関係になっている。
「本当に抱き合うの?」
「はい」
 質問を受けて私も答える。
「あなたも漫画描くの?」
 これは同業の漫画家の女性だ。
「いえ、私は小説を書きます」
「かえでさんはこれで1千万は稼がれると思いますよ」
「1千万?」
 これは横に来て名刺を出した出版社の社員だ。そんなに有名だったのか。
「彼女のエロさは女のファンが多いのですよ」
 帰りがけかえでからラブホテルに誘った。かえでは自分の作品で濡れ切っていたのだ。
「今日はアナルに入れてね?」
 この日のためにかえでは指でアナルを鍛えていたのだ。








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すみれ10

 朝かえでが蹲っている。
「どうした?」
「見ないで!」
 顔が真っ白だ。パジャマのズボンが鮮血に染まっている。
「救急車呼ぼうか?」
「時々あるから心配しないで」
「病院に行けよ」
と言って追い出されるように銀行に出る。
 3時にかえでからメールが入って病院に行ったとあった。店は休むとのこと。今日は4時に飛田のあの店で集金があるというので出かける。2階に上がると広間に8人ほど男女の年配人たちが座っている。テーブルにはビールやお酒が並んでいる。私は平さんに紹介されて座る。
 どうもここにいる人は顔見せの主人たちで女の子の金をまとめて頼母子に来ているようだ。集まった金は2千万ほどある。私が袋を確認して入金の記帳をする。平さんは手を上げた人に用意していた札束の入った袋を渡す。
 私は自転車なのでお金は預からず一度銀行に戻り両替に走る。7時にいつも通り戻ると平さんはもう帰ってしまっている。
『今おかんお店にいる』
 かえでからだ。何を考えてるんだ。慌てて銀行を出た。
 おかんの店の暖簾を潜ると、定席にかえでがビールを飲んでおかんの不良の親父と話している。おかんは私を見ると親父を引き離す。
「ビールは辞めろよ」
「気付け薬よ」
「ダメだよ」
「生きている間は好きなようにさせて」





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すみれ9

 徐々に引継ぎが始まっている。だがまだ近場が中心で自転車で走っている。もう半月が経つのに父からは就職が決まったという連絡はない。それで心配になって10時にマンションに行くと伝えた。
「お金いけてるの?」
「預金を送ってもらったから」
 これは嘘だ。
「それにチラシを配る仕事を繋ぎでしている」
 それでも給料から3万を出して置いて帰った。今日は7時に平さんから飲みに誘われている。呼ばれた先は飛田の表通りの裏の路地にある小料理屋だ。
「若い人ね?」
 30歳くらいの女将だ。部屋はカウンターだけで10席程度だ。
「ここは働いている女や常連が来る。この裏通りから店にも入れる」
 確かに化粧した顔見せに並んでいるらしい女の子が軽食にビールを飲んでいる。
「この子は沖縄から来た私の親戚の子やがクォーターや」
「私の旦那様よ」
 親子ほど違う。
「この店は?」
「私が10年前に買った。20歳の時に訪ねてきて顔見せで働くと言うのでここでアルバイトで雇った。それが男と女の関係になった」
「奥さんと子供は?」
「42歳の時に別れたわ。出世しないとな。こういう生き方もある幸せだわ。みんな隠れた自分を持っているんや」
 3歳くらいの女の子が平さんの手を引っ張っている。すみれである私もそうだ。
 9時半におかんの店に行くともうかえでがおかんと楽しそうに笑って話している。






 



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すみれ8

 へえ!かえで凄いんだな。ブログの端の本は広告だと思っていたがかえでが出した漫画本だ。楓ではなくかえでで出している。もう3冊も出している。それに比べ私の小説は・・・。
「3時に通天閣の前に来れるか?」
 平さんに言われた。原付は1台しかないから自転車でこいでいく。私の集金の地域から30分ほどかかる。
「付いてこいや」
と私を見つけると原付をゆっくり押して路地に入ってゆく。通用口から階段を登ってノックをすると扉があく。中には大柄の70歳くらいの男が座っている。
「会長や」
「君が代わりの?」
「会長はここで5店舗串カツやをしている」
「集金を?」
「いや。会長がしている頼母子の手伝いや」
「頼母子?」
「会長は沖縄の出で私の先輩や。詳しいことはゆっくり教えるわ」
 私はそこで別れると銀行に戻って両替を運び銀行を出たのは8時半だ。すでに平さんの席は片づけられている。9時半にはおかんの暖簾をくぐる。私の席にかえでが座っている。
「姉さんの友達よ」
 おかんに言われて横に掛ける。
「どうした?」
「3時から9時に変えてもらった。でも顔見せはするわ。毎日ひろし君に会いたいから」
 かえでが私の腕を掴んでいる。おかんは吃驚して目をそらせる。










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すみれ7

「出る前にちょっと支店長室来い」
 朝礼が終わって両替の袋を鞄い詰めていると支店長に呼ばれた。支店配属以来初めて話した。支店長室は2階にある。中に入るとしかめっ面の顔を上げる。
「仕事は慣れたか?」
「ええ」
「集金係りの平さんとは親しい?」
「いえ」
「彼は3か月後定年だ。引継ぎをしてもらいたい。だから今の取引先を少し整理して少しずつ平さんの集金先を教えても貰ってくれ。原付は乗れるか?」
「ええ免許は持っていますから」
「それと・・・彼は同じ取引先をもう17年も回っている。だが前の支店長からも不審な行動があると言われている。入金確認もしたが問題なかったが」
 部屋を出ると待っていた平さんが集金先のリストを無言で渡した。
 私は一番暇になる3時に私のマンションに5日ぶりに戻った。合鍵で開けると父のために買った中古の布団が綺麗に畳んであった。テーブルの上にハローワークの用紙が積みあがったままだ。冷蔵庫を開けると半ダースのビールはなくなっていて缶ビールが3本入っている。
 母からの手紙が届いている。父は私のマンションにいると伝えていたようだ。
『・・・お好み焼きを始めたけど赤字続きで預金は送れないわ。それに妹の主人が暗い人で店には出せないので私が鉄板を焼いている。お金はひろしに貰って』
と何とも冷たい事務的な返事だった。私はポケットから虎の子の1万札を手紙の上に広げて置いた。夫婦はこんなに冷たいものかと結婚には憧れはない。
 4時に銀行に戻って静江が用意してくれた袋を入れて自転車をこぐ。6時半に最後の両替を運ぶと1日は終わりだ。私に机の上に平さんが手垢だらけの地図を置いてもう帰っている。















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すみれ6

 朝まで3度も抜いた。もう立ちもしない。さすがに二人が起きたのは太陽が真ん中に昇っている。
「今日は風邪ひきで休みを取ったよ」
「もうできないよ」
「映画に行かない?それからおかんの店に連れて行って?」
 これは小説の間に書いているブログを読んでいるようだ。
 二人で化粧を始めて4時半の映画に飛び込んだ。だがおかんの店でばれないだろうか?映画が終わったのは8時、それからぶらぶら商店街を歩く。かえではきっちり腕を組んでいる。9時に店の前に来る。父は外で飲んでいるだろうか。
「あれ、ひろし君の姉さんだったっけ?」
 私の定席に並んで座る。
「私の友達です」
「かえでです」
 どうやら気が付いてないようだ。大瓶を2本空けて3本目に入る。度々常連が話しかけるのをおかんが止めている。
「ここ気に入ったわ。私のところから近くだし。時々来ようかな?」
「強いな?」
「スナックで働いていた時に鍛えられたのよ」
「ひろし、いえすみれはいつから飲みだした?」
「大学時代に女装の仲間とよく飲んだ。みんな強いんだ。それよりお父さんと話でどうだった?」
「父と言っても他人だから。それにピルを使っているし。私の店にいる子は本当の父と何度もしていたと言っているわ。燃えるって言っていたわ」
「そんなものか?」
「ひろし来なかったね?」
 おかんが珍しそうに言う。11時でここは閉まる。私がお金を払おうとするがかえでがすべて払い済みだ。
「お金ないのでしょ?」








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すみれ5

 かえでの了解を取って土曜の朝鞄を抱えてかえでのマンションに荷物を移した。恥ずかしいが夢の話もした。
「私なんか本当に2番の親父に入れられたよ。それで飛び出したのよ」
と受け入れてくれた。
 合鍵で開けて部屋に入って鞄を置く。かえでは爆睡していて起きない。かえでは一人寝る時はつるつるの頭のままだ。だが寝顔が可愛い。そっとキッスをして外に出る。
 父の泊まっているビジネスホテルのフロントにもう鞄を持って立っている。
「しばらく先輩のところに泊まる。冷蔵庫にはビールを半ダース買っている」
「ひろしはいないのか?」
「金はある?」
 これには即座に返事がない。
「母とは話した?」
 今度は父が黙っている。
 マンションに着くと部屋に上がって説明する。布団は余分に買って置いた。
「テーブルに地図とそこにハローワークの位置をマークしている」
「仕事が見つかったら出て行く」
「それより母から預金を送ってもらったら?」
 どうも父と話すのは苦手だ。テーブルの5万を置いて外に出る。これで来月は桔梗に行けそうもない。それにただで抱くのはどうかと思える。
「今日は早いね?」
 おかんの店を覗く。
「今日からしばらく親父が泊まります」
「いいよ。お父さんは飲みに来ないの?」
「親父は苦手なんです」
 9時に店を出てかえでのマンションに帰って布団に潜り込む。1時半に急に起こされて素っ裸のかえでが飛び込んでくる。
「仕事の後でもできるの?」
「そんなの関係ない」












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すみれ4

 私のブログは女装の写真をアップしているが、すみれとだけで年齢も仕事も書いていない。小説はすでに5作目でファンタジーに変えたのでまだ真ん中くらいだ。楓は常にベストテンに入っていて漫画を載せていて合間にエッチな画像を上げている。この前はTバックのお尻を上げていたが、アナルが半分出ていたのですぐに消された。
 今日は8時半に天王寺の改札で父と会い阿部地下で初めて二人で居酒屋に入る。父は前よりさらに痩せて無精ひげを生やしている。大きな鞄を椅子の上に置いている。
「新潟から?」
「妹の主人が研究所を首になって二人でお好み屋を始めた。それで2千万を出してあいつも一緒に始めた。私は邪魔になったので大阪に帰ってきた」
「離婚?」
「別居だな」
「で親父どうする?」
「仕事が決まるまで泊めてくれんか?」
 困ったな。同じ部屋にいると女装は出来ない。それに嫌な夢を何度も見たことがある。
「しばらくこの近くのホテルに泊まっていてくれ。布団やいろいろ揃えたら連絡する」
 大学の時私の部屋に目が覚めると父が座っていたことが何度かあった。その日から父に抱かれている自分を夢見るようになった。
 ビールを二人で2本空けて父をビジネスホテルに連れて行って2万を握らせた。恐らくお金は母の握られているはずだ。
『かえで助けてくれ』



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すみれ3

 今日は昼を抜いて1時までに夕方の両替を残して仕事を完了させて自転車であの病院まで走る。ネットで調べて見たが40分で到着する。それでも約束の2時に10分遅れた。自転車を止めて銀行鞄を持ってはいる。待合室にかえでが座っている。
「へえ、男姿もいいよ」
「いや」
 照れて横に座る。15分ほどしてかえでが呼ばれる。昔の病院の臭いがする。鞄を抱えて1時間待つ。
「どうだった?」
「前回の検査では少し悪くなっている」
「店を辞めたら?」
「ダメ。エッチがなければ生きていけない。死ぬまで男の人と話を続ける」
「仕方ないな」
 自転車を押してかえでと歩く。
「橙の電車が見えるわ」
 この商店街は母と歩いた。
「歩いて帰るけど銀行の仕事は大丈夫?」
「ああ、両替えだけにしている」
「お母さんは?」
「しばらくおばあちゃんのスナックを継いでいたけど、私が18歳の時に3人目の男と家出したわ。おばあちゃんはスナックを閉めて老人ホームに入っている。もう私のこと覚えてないよ」
 かえではそのまま店に入る。心の中で手を振って花街の中をゆっくり自転車で走る。ブレーキをかけて原付を見る。銀行の名が入っている。万年平さんが暖簾からちょうど出てくる。どう見ても集金してきた表情ではない。



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すみれ2

 10時15分前に約束の動物園の入り口に来る。家族連れが並んでいる。外に出る時は出来るだけ薄化粧にしている。それは通天閣にはあまりにもおかまが多い。おかまと見られたくないのだ。普通の女の子でいたい。椅子に掛けていると頭に麦藁帽子が被される。
「似あっているわ」
「ありがとう」
 女同士になって腕を組む。
「ひろし君がこんなに可愛くなるのって」
「かえでの開発力よ」
 3時間も腕を組んで歩く。私が少し背が高くかえでは痩せているが胸はつんと立っている。ホルモン注射で素足でスカートが履けるようになった。
「昼私のマンションでどう?」
 通天閣の中を通り過ぎて商店街を歩く。それから裏通りに入って新しいマンションに入る。7階建てで私の部屋より広い。
「ここから私の部屋が見えるよ」
「なんだそんなところにいた?」
 用意していたカレーを皿に入れてビールを抜く。私が我慢できないでかえでのスカートに手を入れる。スカートを上げるともう反り立ってパンツからはみ出ている。かえでが口に含んでそれから迎え入れる。時間を気にせず1時間も続ける。それから一緒に風呂に入って洗いっこする。
「ここでしたの初めて!レディースマンションだし、隣の部屋はレズで夜中凄いのよ」
 私は持ってきたピンクの帽子を壁にピンでとめた。
「ひろし君私を見送ってくれる?」
「見送る?」
「もう限界のようなの?今度病院に行く」
「付いていくよ」



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プロフィール

yumebito86869

Author:yumebito86869
もう記憶の中で小さくなってしまているが、
小さい頃病院で隔離されていた時期があった。
その時隣部屋にかえでと言う毛糸の帽子を被った少女がいた。
童貞を失ったのもかえでだ。
何もかもう失った時、私はすみれとして彼女と再会した。
また短い時間だったが私の中で一生光り輝いている。

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