それぞれ8

 支店長は融資に二の足を踏んだ。リスクを負いたくないというタイプだ。銀行員に多いタイプだ。そうして定年前にようやく小型店舗の支店長となった。代理も歯切れが悪い。それで私の名前で稟議を上げることになった。それでこの3日間は9時半まで残業している。
 今日は次長に稟議の判も押されずに机に戻されてきた。
「断るならもう限界だ。謝って来い」
 次長も輪をかけて新しいことを嫌う。書類を鞄に入れて仕方なく集金に回る。さすがに一度串カツ屋の会長を訪ねようとも考えた。昨夜その話をかえでにしたら辞めたら私が食べさせてあげると言われた。これでは情けない紐だ。
「どうした暗い顔をしているぞ」
 平さんが入ってきた私の肩を叩いた。平さんは退職してから逆に元気になっている。それで今回の融資の話をした。
「会長が融資の話をしたのは初めてやな。書類を見せてくれるか?」
 平さんが書類を見ている横に父が集金から戻ってきて洗い場に入る。かえでは何度かこの店で父と会っている。かえでは父が気に入っているのか店に来てほしいと言っている。
「一度本店の常務に話してやろう」
「常務?」
「同期なんだよ。同じ店で働いたこともある。この店にも時々飲みに来るわ」
 その夜また稟議を書き直して次長の机に置いて帰る。
「どう?」
 おかんの店に行くと先に来ていたかえでがそう聞く。
「少し意地になってきた」
「今日抱いてあげるよ。そうお昼にお父さんと話をしたよ」
「まさか?」
「下の口の話じゃないよ」




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それぞれ7

 父が初めての給料で家賃を払った。借りていた金も少しずつ返すという。今は暇な時間は集金をしているそうだ。どうも平さんは銀行の社員にも金を貸しているようだ。それにかえでの言うのは飛田の女の子もかなりお客がいるらしい。
『なぜ保証人断るの?』
 10年ぶりの妹の声だ。私は妹の結婚式も呼ばれていない。彼女の中では兄はいないのだ。独断独走で走ってきたが、どうも結婚相手は失敗したようだ。いい大学を出た同士だが夫は社会的ではなさそうだ。妹を専業主婦にしたのはいいが研究所を辞めてしまった。そこから強引にお好み屋を思いついたがまた夫には合わない。辞めてぶらぶらして母が店に入っている。
『私たちは病院に入院した時から兄弟ではなくなったのだ。母を巻き込むな』
 原付を道路脇に止めて携帯を切る。
 これから通天閣の串カツ屋の会長と営業のリーダーの代理を合わせる。この代理は平さんの歓送迎会にも来ている。裏通りで待ち合わせをしてビルに上がる。
「長い付き合いだがそちらで借りたことはないが、今回は出物の建物が出てのだ。メインバンクは前回借入してまだ半年で融資はしぶられている。どうだ?」
 平さんは融資をしない。だから話があれば代理が出てくる。
「うむ」
 書類を見て代理が唸っている。金額が8億と大きい。
「建物を壊して立て直すときは付け替える約束はできている。1年あれば?」
「やってみましょう?」
 私は代理に声をかける。
「事前稟議を上げます」
と代理も頷いた。
 帰り代理がこれはお前が書けよ。と肩を叩く。






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それぞれ6

『あんた親の恩を忘れている!』
 朝一番叫ぶように携帯がかかってきた。母だ。携帯を掛けて来たのは初めてだ。父が断れなくて携帯を教えたのだろう。10分ほど喚き散らして切った。
「大変ねひろし君も」
 かえでが布団から顔を出して言う。病院で母を見ているからよく分かるようだ。最近はセックスを私の方が控えている。やはり見ていて調子が良くないのだ。
「店は当分休んだら?」
「それは言わない約束よ。私は精一杯余命を頑張る」
「分かった」
 最近かえでは朝私と同じに起きて朝食を食べる。それから寝ずにブログを描いている。私の方が追い付けないでいる。なぜかひどく急いでいるように見える。
「昨日店でお父さんに会ったよ」
「ああ、店で雇ってもらったのだ」
「たまに抱いてあげようかな。ひろし君が抱いてくれないから」
「ダメだ」
「それと雑誌社から今の新作課金にしたらどうだって?」
「課金?」
「有料にするって」
「見てもらえるのかなあ?」
「大丈夫だって」




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それぞれ5

 無事に平さんが退職となった。私は原付に乗って集金に回る。すみれとかえでのコラボ漫画もスタートして1週間になる。今まで以上のアクセスが上がっている。結局いろいろあって平さんの歓送迎会は行われなかった。それで今日内緒で有志だけのささやかな飲み会を飛田の平さんの店でやる。
 世話人代表は掃除のおばさんで外勤から3人、内勤から2人しか集まらなかった。7時からだが私は30分遅れて店に着いた。私の席は静江が確保している。それでも平さんは気を使って貸切にした。私を待っていてくれたのか乾杯のビールが今出てきた。もう父がワイシャツ姿でビールを運んでくる。平さんは約束を守ってくれたのだ。
「これは嫁だ」
 初めて平さんが頭を掻いて紹介した。へえ!と言うため息が漏れる。出世でくたびれたサラリーマンより幸せっだように思う。女将が子供連れて席に着く。
「なんかいいな」
 静江が私に相槌を求める。私は皿を運んできて下げる父ばかりが気にかかる。何とかなればな?
「どうですか?」
「もう1週間になるが慣れたようやな。朝11時から8時まで入ってもらっているわ。店が慣れたら間に集金を頼む」
 平さんに酒を注ぎながら話す。
「私の仕事手伝うなら金出すよ」
「いえ、私は頼母子にはかかわりませんよ」
「分かった」
 10時まで飲んだ。父はもう姿が見えない。遅くなったので私が静江を送ることになった。もうバスがなくなっているからタクシーを捕まえようとしたが静江が歩くといい張った。松虫の家の近くまで来ると彼女から唇を吸ってきた。





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それぞれ4

 久しぶりに静江をグリルに誘う。両替の手伝いに対してお昼を奢ると約束している。
「次長が私に串カツ屋の集金を聞いていたよ」
 もう集金は私に代わっている。私にも容疑をかけているのだろう。
「ね、日曜日映画行かない?」
「いや、用事がある」
 彼女は銀行では人気がある。こうしてグリルに行くだけでいらぬ噂をたてられている。別れると両替を届けに回る。4時には父とマンションで会う。
「迷惑かけたな」
 缶ビールがテーブルの上にある。これはかえでを抱いたことへのお詫びのようだ。
「彼女もよかったと言っている。ところで今日は仕事の話だよ」
 簡単に平さんの説明をした。明日にでも行くという。缶ビールの横に手紙がある。私は手に取ると中を読む。母からだ。お好み焼き屋は赤字続きで1千万の借り入れを銀行から借りるので私に保証人になれということだ。封筒の中に融資申込書が入っていて保証人欄に印が入っている。まことに母らしい。父は黙って申込書を破る。
 おかんの店には9時半に行く。またおかんの親父がかえでの横にいる。おかんが追い払うように席を開ける。最近は早く終わるようになっている。かえでは鞄の中からノートパソコンを出してくる。
「提案よ。次の作品は二人でやらない?」
「絵は描けないよ」
「すみれとして文章を書くの。絵は私が描く。昔やったような交換絵物語よ。私のブログにすみれも入れるようにしたわ」
 かえではプロフィールのところに二人で撮った黒のTバック姿を貼り付けている。





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それぞれ3

 昼に支店長室で本店の年配の検査役と面接だ。朝は平さんが半日面接を受けていた。
「彼は否定しているが君はどうだ?」
「私は引き継いで間がないのでよくわかりません」
 結局これが私の答えだ。だが感じているものがあるがそれを口にすべきではないと思っている。終わると昼を抜いて自転車で飛田の平さんの店に走る。
「どうだった?」
 平さんが椅子に掛けてお茶を飲んでいる。
「支店長も、検査役も取引先に会って確認する気はありません。何しろ大口先ですから」
 ヒヤリングだけで取引は切れ賠償金を求められるかもしれないのだ。あくまでも内々のことで解決したい。
「君には真実を話すよ」
 彼女が心配そうにコーヒーを入れてくれる。店には客はいない。
「串カツ屋の会長の通帳から始め毎月5百万をこちらの頼母子の支払いに使っていた。会長は残高しか見ない。それがいつの間にか2千万になった。だが去年からもう繋ぎ資金は必要ではなくなった」
 それも調べて分かっている。この店を買って苦しかった時期は終わっている。こちらの頼母子も手持ち資金で賄えるようになり、小口の貸金も始めている。
「要求はあるか?」
「今この店でアルバイトの店員を募集していますね?」
「ああ、店の洗いと私の方の集金をしてもらおうと」
「親父を雇ってもらえませんか?」
「履歴書を持ってきてもらおうか?」
 話が終わった時に女の子が3人入ってきた。その一人が楓だ。かえでは気づいているが声をかけない。







 

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それぞれ2

 今日は女装をして9時におかんの店で合流する。それで仕事を7時半で上がった。かえでの公休日だ。かえでは休みには昼までゆっくり寝て買い物に出かけ服を買い込んでくる。かえでにはマンションによってジーパンを取ってきてもらう。昼の間は父は外でビラを配っている。
「ひろし君来ないね?」
「女同士の時は恥ずかしがって避けるのよ」
 おかんにそう返事して時計を見る。30分過ぎている。
「ひろし君姉さんの友達と?」
「付き合っているようね?」
 かえでが髪を乱して入ってくる。
「遅かったね?」
「起きるの遅くて買い物をしたらマンションによる時間遅くなって」
と言ったきり口をつむんでいる。言いたくないことがある時の癖だ。
「怒らない?」
「うん」
「お父さんと部屋であった。そしたらお父さん一人でオナニーにしていた。それで私入れてあげた」
「入れた?」
 言葉が出ない。
「怒った?私お父さんと話できて嬉しかった。20年ぶりだって言ってたよ」
「ありがとうと言うべきだな?」
 このシーンがかえでの漫画にあった。





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それぞれ1

「ちょっと来てくれ?」
 朝出がけに支店長から呼ばれて2階に上げる。その部屋に内部責任者の次長が座っている。テーブルの上に通帳の記帳履歴が並んでいる。串カツやの会長の通帳と飛田の小料理屋の女将の通帳が並べたれている。
「とくに5年前からここからお金が1千万~2千万出て同額1か月後にこちらから戻されている。係わりがあるのか?」
「全く別人の通帳です」
「何のお金だ?」
「ただ集金をしているだけで」
 私は嘘をついた。平さんはもう10日後に退職する。それだけ言うと両替に出る。自転車をこいでいると横に原付が着く。
「次長が通帳を調べていたが?」
「それを聞かれました」
「話した?」
「いえ」
「ならいい」
 それだけで離れていく。ふと自転車を止める。父に似ている?阿倍野の交差点でビラを配っている。こちらに落ちているビラを見るとピンク広告だ。もう私のマンションに泊まって2か月になる。家賃はこちらが払っている。だから相当な金欠だ。かえでが気にしておかんの店の支払いはしてくれる。
「親父コーヒーを飲もう」
 声をかけて喫茶店に入る。
「母から送金はないのだろう?」
「・・・」
「今の仕事じゃ食べれないだろう?仕事を頼んでみる」
 そう言って1万札を置いてコーヒー代を払って出る。







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すみれ11

 かえでは病気のことは話さない。でも顔色は戻った。今日は二人でかえでの出版記念に出かける。もちろん私はすみれとして一緒に行く。環状線天王寺からホテルのある京橋で降りる。私もそうだがかえでもネットではずいぶんファンがいるようだ。今回の作品はすみれとかえでの物語だ。
 会場には若い人とくに女性が50人ほどいる。かえでが入口で本にサインをする。その後かえでが中央の席で物語の話をして質問に答えている。バイキング形式で飲み物も出ている。同業の物書きが挨拶をする。かえでが私を紹介する。
「この作品のモデルなんです」
「わー!綺麗な人」
 物語は私も読んだが私は男でなくレズの関係になっている。
「本当に抱き合うの?」
「はい」
 質問を受けて私も答える。
「あなたも漫画描くの?」
 これは同業の漫画家の女性だ。
「いえ、私は小説を書きます」
「かえでさんはこれで1千万は稼がれると思いますよ」
「1千万?」
 これは横に来て名刺を出した出版社の社員だ。そんなに有名だったのか。
「彼女のエロさは女のファンが多いのですよ」
 帰りがけかえでからラブホテルの誘った。かえでは自分の作品で濡れ切っていたのだ。
「今日はアナルに入れてね?」
 この日のためにかえでは指でアナルを鍛えていたのだ。








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すみれ10

 朝かえでが蹲っている。
「どうした?」
「見ないで!」
 顔が真っ白だ。パジャマのズボンが鮮血に染まっている。
「救急車呼ぼうか?」
「時々あるから心配しないで」
「病院に行けよ」
と言って追い出されるように銀行に出る。
 3時にかえでからメールが入って病院に行ったとあった。店は休むとのこと。今日は4時に飛田のあの店で集金があるというので出かける。2階に上がると広間に8人ほど男女の年配人たちが座っている。テーブルにはビールやお酒が並んでいる。私は平さんに紹介されて座る。
 どうもここにいる人は顔見せの主人たちで女の子の金をまとめて頼母子に来ているようだ。集まった金は2千万ほどある。私が袋を確認して入金の記帳をする。平さんは手を上げた人に用意していた札束の入った袋を渡す。
 私は自転車なのでお金は預からず一度銀行に戻り両替に走る。7時にいつも通り戻ると平さんはもう帰ってしまっている。
『今おかんお店にいる』
 かえでからだ。何を考えてるんだ。慌てて銀行を出た。
 おかんの店の暖簾を潜ると、定席にかえでがビールを飲んでおかんの不良の親父と話している。おかんは私を見ると親父を引き離す。
「ビールは辞めろよ」
「気付け薬よ」
「ダメだよ」
「生きている間は好きなようにさせて」





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すみれ9

 徐々に引継ぎが始まっている。だがまだ近場が中心で自転車で走っている。もう半月が経つのに父からは就職が決まったという連絡はない。それで心配になって10時にマンションに行くと伝えた。
「お金いけてるの?」
「預金を送ってもらったから」
 これは嘘だ。
「それにチラシを配る仕事を繋ぎでしている」
 それでも給料から3万を出して置いて帰った。今日は7時に平さんから飲みに誘われている。呼ばれた先は飛田の表通りの裏の路地にある小料理屋だ。
「若い人ね?」
 30歳くらいの女将だ。部屋はカウンターだけで10席程度だ。
「ここは働いている女や常連が来る。この裏通りから店にも入れる」
 確かに化粧した顔見せに並んでいるらしい女の子が軽食にビールを飲んでいる。
「この子は沖縄から来た私の親戚の子やがクォーターや」
「私の旦那様よ」
 親子ほど違う。
「この店は?」
「私が10年前に買った。20歳の時に訪ねてきて顔見せで働くと言うのでここでアルバイトで雇った。それが男と女の関係になった」
「奥さんと子供は?」
「42歳の時に別れたわ。出世しないとな。こういう生き方もある幸せだわ。みんな隠れた自分を持っているんや」
 3歳くらいの女の子が平さんの手を引っ張っている。すみれである私もそうだ。
 9時半におかんの店に行くともうかえでがおかんと楽しそうに笑って話している。






 



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すみれ8

 へえ!かえで凄いんだな。ブログの端の本は広告だと思っていたがかえでが出した漫画本だ。楓ではなくかえでで出している。もう3冊も出している。それに比べ私の小説は・・・。
「3時に通天閣の前に来れるか?」
 平さんに言われた。原付は1台しかないから自転車でこいでいく。私の集金の地域から30分ほどかかる。
「付いてこいや」
と私を見つけると原付をゆっくり押して路地に入ってゆく。通用口から階段を登ってノックをすると扉があく。中には大柄の70歳くらいの男が座っている。
「会長や」
「君が代わりの?」
「会長はここで5店舗串カツやをしている」
「集金を?」
「いや。会長がしている頼母子の手伝いや」
「頼母子?」
「会長は沖縄の出で私の先輩や。詳しいことはゆっくり教えるわ」
 私はそこで別れると銀行に戻って両替を運び銀行を出たのは8時半だ。すでに平さんの席は片づけられている。9時半にはおかんの暖簾をくぐる。私の席にかえでが座っている。
「姉さんの友達よ」
 おかんに言われて横に掛ける。
「どうした?」
「3時から9時に変えてもらった。でも顔見せはするわ。毎日ひろし君に会いたいから」
 かえでが私の腕を掴んでいる。おかんは吃驚して目をそらせる。










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すみれ7

「出る前にちょっと支店長室来い」
 朝礼が終わって両替の袋を鞄い詰めていると支店長に呼ばれた。支店配属以来初めて話した。支店長室は2階にある。中に入るとしかめっ面の顔を上げる。
「仕事は慣れたか?」
「ええ」
「集金係りの平さんとは親しい?」
「いえ」
「彼は3か月後定年だ。引継ぎをしてもらいたい。だから今の取引先を少し整理して少しずつ平さんの集金先を教えても貰ってくれ。原付は乗れるか?」
「ええ免許は持っていますから」
「それと・・・彼は同じ取引先をもう17年も回っている。だが前の支店長からも不審な行動があると言われている。入金確認もしたが問題なかったが」
 部屋を出ると待っていた平さんが集金先のリストを無言で渡した。
 私は一番暇になる3時に私のマンションに5日ぶりに戻った。合鍵で開けると父のために買った中古の布団が綺麗に畳んであった。テーブルの上にハローワークの用紙が積みあがったままだ。冷蔵庫を開けると半ダースのビールはなくなっていて缶ビールが3本入っている。
 母からの手紙が届いている。父は私のマンションにいると伝えていたようだ。
『・・・お好み焼きを始めたけど赤字続きで預金は送れないわ。それに妹の主人が暗い人で店には出せないので私が鉄板を焼いている。お金はひろしに貰って』
と何とも冷たい事務的な返事だった。私はポケットから虎の子の1万札を手紙の上に広げて置いた。夫婦はこんなに冷たいものかと結婚には憧れはない。
 4時に銀行に戻って静江が用意してくれた袋を入れて自転車をこぐ。6時半に最後の両替を運ぶと1日は終わりだ。私に机の上に平さんが手垢だらけの地図を置いてもう帰っている。















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すみれ6

 朝まで3度も抜いた。もう立ちもしない。さすがに二人が起きたのは太陽が真ん中に昇っている。
「今日は風邪ひきで休みを取ったよ」
「もうできないよ」
「映画に行かない?それからおかんの店に連れて行って?」
 これは小説の間に書いているブログを読んでいるようだ。
 二人で化粧を始めて4時半の映画に飛び込んだ。だがおかんの店でばれないだろうか?映画が終わったのは8時、それからぶらぶら商店街を歩く。かえではきっちり腕を組んでいる。9時に店の前に来る。父は外で飲んでいるだろうか。
「あれ、ひろし君の姉さんだったっけ?」
 私の定席に並んで座る。
「私の友達です」
「かえでです」
 どうやら気が付いてないようだ。大瓶を2本空けて3本目に入る。度々常連が話しかけるのをおかんが止めている。
「ここ気に入ったわ。私のところから近くだし。時々来ようかな?」
「強いな?」
「スナックで働いていた時に鍛えられたのよ」
「ひろし、いえすみれはいつから飲みだした?」
「大学時代に女装の仲間とよく飲んだ。みんな強いんだ。それよりお父さんと話でどうだった?」
「父と言っても他人だから。それにピルを使っているし。私の店にいる子は本当の父と何度もしていたと言っているわ。燃えるって言っていたわ」
「そんなものか?」
「ひろし来なかったね?」
 おかんが珍しそうに言う。11時でここは閉まる。私がお金を払おうとするがかえでがすべて払い済みだ。
「お金ないのでしょ?」








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すみれ5

 かえでの了解を取って土曜の朝鞄を抱えてかえでのマンションに荷物を移した。恥ずかしいが夢の話もした。
「私なんか本当に2番の親父に入れられたよ。それで飛び出したのよ」
と受け入れてくれた。
 合鍵で開けて部屋に入って鞄を置く。かえでは爆睡していて起きない。かえでは一人寝る時はつるつるの頭のままだ。だが寝顔が可愛い。そっとキッスをして外に出る。
 父の泊まっているビジネスホテルのフロントにもう鞄を持って立っている。
「しばらく先輩のところに泊まる。冷蔵庫にはビールを半ダース買っている」
「ひろしはいないのか?」
「金はある?」
 これには即座に返事がない。
「母とは話した?」
 今度は父が黙っている。
 マンションに着くと部屋に上がって説明する。布団は余分に買って置いた。
「テーブルに地図とそこにハローワークの位置をマークしている」
「仕事が見つかったら出て行く」
「それより母から預金を送ってもらったら?」
 どうも父と話すのは苦手だ。テーブルの5万を置いて外に出る。これで来月は桔梗に行けそうもない。それにただで抱くのはどうかと思える。
「今日は早いね?」
 おかんの店を覗く。
「今日からしばらく親父が泊まります」
「いいよ。お父さんは飲みに来ないの?」
「親父は苦手なんです」
 9時に店を出てかえでのマンションに帰って布団に潜り込む。1時半に急に起こされて素っ裸のかえでが飛び込んでくる。
「仕事の後でもできるの?」
「そんなの関係ない」












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すみれ4

 私のブログは女装の写真をアップしているが、すみれとだけで年齢も仕事も書いていない。小説はすでに5作目でファンタジーに変えたのでまだ真ん中くらいだ。楓は常にベストテンに入っていて漫画を載せていて合間にエッチな画像を上げている。この前はTバックのお尻を上げていたが、アナルが半分出ていたのですぐに消された。
 今日は8時半に天王寺の改札で父と会い阿部地下で初めて二人で居酒屋に入る。父は前よりさらに痩せて無精ひげを生やしている。大きな鞄を椅子の上に置いている。
「新潟から?」
「妹の主人が研究所を首になって二人でお好み屋を始めた。それで2千万を出してあいつも一緒に始めた。私は邪魔になったので大阪に帰ってきた」
「離婚?」
「別居だな」
「で親父どうする?」
「仕事が決まるまで泊めてくれんか?」
 困ったな。同じ部屋にいると女装は出来ない。それに嫌な夢を何度も見たことがある。
「しばらくこの近くのホテルに泊まっていてくれ。布団やいろいろ揃えたら連絡する」
 大学の時私の部屋に目が覚めると父が座っていたことが何度かあった。その日から父に抱かれている自分を夢見るようになった。
 ビールを二人で2本空けて父をビジネスホテルに連れて行って2万を握らせた。恐らくお金は母の握られているはずだ。
『かえで助けてくれ』



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すみれ3

 今日は昼を抜いて1時までに夕方の両替を残して仕事を完了させて自転車であの病院まで走る。ネットで調べて見たが40分で到着する。それでも約束の2時に10分遅れた。自転車を止めて銀行鞄を持ってはいる。待合室にかえでが座っている。
「へえ、男姿もいいよ」
「いや」
 照れて横に座る。15分ほどしてかえでが呼ばれる。昔の病院の臭いがする。鞄を抱えて1時間待つ。
「どうだった?」
「前回の検査では少し悪くなっている」
「店を辞めたら?」
「ダメ。エッチがなければ生きていけない。死ぬまで男の人と話を続ける」
「仕方ないな」
 自転車を押してかえでと歩く。
「橙の電車が見えるわ」
 この商店街は母と歩いた。
「歩いて帰るけど銀行の仕事は大丈夫?」
「ああ、両替えだけにしている」
「お母さんは?」
「しばらくおばあちゃんのスナックを継いでいたけど、私が18歳の時に3人目の男と家出したわ。おばあちゃんはスナックを閉めて老人ホームに入っている。もう私のこと覚えてないよ」
 かえではそのまま店に入る。心の中で手を振って花街の中をゆっくり自転車で走る。ブレーキをかけて原付を見る。銀行の名が入っている。万年平さんが暖簾からちょうど出てくる。どう見ても集金してきた表情ではない。



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すみれ2

 10時15分前に約束の動物園の入り口に来る。家族連れが並んでいる。外に出る時は出来るだけ薄化粧にしている。それは通天閣にはあまりにもおかまが多い。おかまと見られたくないのだ。普通の女の子でいたい。椅子に掛けていると頭に麦藁帽子が被される。
「似あっているわ」
「ありがとう」
 女同士になって腕を組む。
「ひろし君がこんなに可愛くなるのって」
「かえでの開発力よ」
 3時間も腕を組んで歩く。私が少し背が高くかえでは痩せているが胸はつんと立っている。ホルモン注射で素足でスカートが履けるようになった。
「昼私のマンションでどう?」
 通天閣の中を通り過ぎて商店街を歩く。それから裏通りに入って新しいマンションに入る。7階建てで私の部屋より広い。
「ここから私の部屋が見えるよ」
「なんだそんなところにいた?」
 用意していたカレーを皿に入れてビールを抜く。私が我慢できないでかえでのスカートに手を入れる。スカートを上げるともう反り立ってパンツからはみ出ている。かえでが口に含んでそれから迎え入れる。時間を気にせず1時間も続ける。それから一緒に風呂に入って洗いっこする。
「ここでしたの初めて!レディースマンションだし、隣の部屋はレズで夜中凄いのよ」
 私は持ってきたピンクの帽子を壁にピンでとめた。
「ひろし君私を見送ってくれる?」
「見送る?」
「もう限界のようなの?今度病院に行く」
「付いていくよ」



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すみれ1

 携帯に頻繁にかえでのメールが入ってくる。だが今の給料では月に1度が精一杯だ。
「先輩何かいいことあった?」
 昼を同期の静江と取ることが多くなった。夜の誘いと日曜日の誘いを断るためだ。
「いや、昔の友達と会ったのさ」
 静江は嫌いではない。妹のような存在だ。今は女性としてはかえでしか見えていない。
『今度の日曜日動物園に行かない?その後ホテルに行こうよ』
 今かえでは起きたのだろう。昨夜は1時にお休みのメールが来た。最後の客が出て行ったのだろう。
『店に行かないと?』
『そんなお金使っちゃダメ!女装で来てね。すみれの帽子お揃いで買ったよ。10時入口でね』
 メールの最後にかえでのTバック姿の写真がついている。
「友達?」
 静江が覗き込むのを慌てて隠す。
「女の子?」
「いや、大学の同窓生の男だよ」
 昼を済ませると私から銀行に戻る。机の上に静江が並べてくれている両替の袋を5袋詰め込む。
「おい、焼肉屋に行ったら融資書類を貰って来い」
 後ろから貸し付け主任が声をかける。この支店では営業は融資をしない。5人の営業と集金係が年配の人が1人いる。この集金係とは滅多に話をしない。もう50歳を超えているのか原付で遠いところを回っている。
「おいこの前飛田を走ってたな?」
 それだけ言うと万年平さんが私の自転車を追い抜いていく。





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再会の時10

 私の記憶に鮮明に残っている。かえでには膣とアナルの間に黒子があるのだ。
「かえで?」
「私は楓よ」
「ちがう。ひろしだよ」
「ひろし君?」
「入れるよ」
 昔は少し窮屈だったが今は滑り込むように入る。でもぎゅうと締め付けれ来る。
「わー!ひろし君だ」
 今の私は30分でも持つようになっている。かえでが体を押し上げるように振動する。昔のように精液を放つとぴくぴくと震える。かえでは私のものを抜くと口で拭き取ってくれる。
「これはひろし君だけ」
「いつ退院をした?」
「高校になった時また母が離婚してお金が払えなくなって強引に退院した」
「病気は?」
「1か月に一度通院をしている。話はまた外でしようよ」
 そう言うなり濃厚なキッスをする。
「また立ってるわ。入れる?シャワーなしなら後10分できるよ」
 今度はかえではお尻を突き出す。今度は5分も持たない。
「ほらもうツルツル」
 鬘を取るとまったく毛がない。かえでは私の口紅を引いて化粧を手伝ってくれる。
「お金はいいよ」
「仕事だよ。次食事をおもってくれれば?」
「メールを送る」







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再会の時9

「すみれです」
「楓です」
 妙に緊張している。部屋の中はもう布団が敷かれてい入て楓がビールを冷蔵庫から出してくる。
「私ももらうわね?」
「はい。どうぞ」
「シャワーは?」
「さっき入ってきたので」
「私もいいわ。時間がもったいないからね」
 堀炬燵の上にパソコンが乗っている。
「ここで更新するの。店は6時~12時だけど、お客が入ると1時になることもあるの。約束の黒のTバックになるわ」
 そう言うとするりと脱ぐ。少しやせ気味かでも胸のふくらみは私より大きい。人前で脱ぐのは初めての私はぎこちなく脱ぐ。
「凄い!綺麗な体してる。毛もそってるの?」
 今朝もう一度念入りに鏡を見ながら前から尻の穴まで剃った。楓がお尻から竿を掴む。私は目をつむってびりびりと感触を感じている。次は私の乳首を吸う。もう竿がパンツをはみ出している。
「大きい!舐めるよ」
 ちゅぱちゅぱという音が続いて飲み込まれた感触で目を開ける。私のものがすかっり楓の口の中に入っている。う!という声で喉元に入っている。
「苦しい?」
「ううん、凄い気持ちがいい。私のも舐めて!」
 69の形になってお互いのものを舐める。楓のものはつるんとしていて毛が生えていない。レモンの香りがする。楓の舌がアナルの中に入ってくる。アナルを舐められたのは初めてだ。仰け反る。
「後ろ使ったことがある?」
「まだ恋人がいない」
「女は嫌い?」
「そうでもない」
 私もお返しの意味でアナルに舌を入れる。
「あ!」










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再会の時8

 初めての給料をもらった。それで昼おかんの店で家賃を払う。それから薄化粧をして阿倍野のデパートに出て目星をつけていた服と下着を買う。戻って風呂に入って買ってきた黒のTバックをつける。自分で見ても欲情が出てくる。Tバックの上から先っちょが伸びてきている。
 時計を見ながら入念に化粧をする。昼より少し厚めにする。今日買ってきたスカートをはいてブラウスを着て鬘をつける。本当は自分の毛を伸ばしたい。5時半になるとお気に入りのハンドバックを持ってそっと外に出る。玄関に降りると不味いことにおかんが入ってくる。
「あれ!ひろしの姉さんだったね?」
「ははい」
 俯いたまま答える。女装すると顔が変わると昔かえでが言っていた。
「弟をよろしく頼みます」
 商店街に向かって早足で歩く。アーケードの手前を飛田に入る。桔梗の看板が見える。店の中に女の子が座っている。
「応募?」
とやり手婆が言う。
「楓さんを?」
「聞いてるよ。2階の奥に上がってもらって」
 奥から声がかかる。
「レズって初めて」
と女の子が話している。やり手婆が襖をかける。
「わあー!凄い本物の方が美人だ」
 楓が飛びついてくる。



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再会の時7

 父から初めて手紙をもらった。新しい住所は知らせていた。
『結局・・』
という言葉で始まっていた。この重さに視線が止まった。必ず父は母に押し切られる。結果は見えていた。
『・・・警備会社に辞表を出して明日新潟に行くことになった。ようやく仕事に慣れてきたと思っていたが、だがお前の妹は同居は無理だと伝えてきた。それで近くのアパートに引越しすることになった。私は仕事が心配だ』
 それで手紙は終わっていた。いつも思うことなのだが父は若い時に中国に行っていて、30歳を過ぎて戻ってきて母と見合い結婚をした。父の兄が死んで戻された形だ。
 今日はいつもより一生懸命自転車をこいで夕方には自転車で飛田の中を走った。頭の中の地図でちょうど花街の真ん中にある桔梗の看板にたどり着いた。まだ陽は陰っていないが灯りが点いていて暖簾の向こうに女が座っている。やはり写真で見る楓ではない。
 目の前をやはり銀行員が自転車で近づいてくる。向こうが不思議そうに見ている。この街では一番強い信金だ。
「ここまで取引先が?」
「ええ」
「こんなところで働いていたら・・・」
と笑って言うと桔梗の勝手口に入っていく。私はぽかんと見つめている。
 その夜、メールが入っていた。
『すみれさんいつ来る?』
『場所を見てきた。今週の土曜日5時はどう?』


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再会の時6

 今日もおかんの店で飲んで10時に戻ってくる。馴染みの常連もたくさんできてひろしと呼ばれるようになった。おかんの祖母は昔は飛田の店に出ていたようだ。写真を見せもらったが凄い美人で当時は3本の指に入っていたという。祖父は有名なやくざですでに亡くなっている。おかんの夫はどうしようもないチンピラやくざだそうだ。
 へえ!昨夜コメント返しの返しが戻っていた。
『すみれさん。私のTバックの写真を送ります。もしよかったらすみれさんの写真もお願いします』
 これは私のアドレスに入ってきた。添付の写真を見ると凄い。Tバックの色も何種類もあるし、お尻の穴が半分はみ出ているのもある。私はパソコンの中にしまい込んでいるファイルを開く。これは大学時代に手術後の記念撮った写真が入っている。その中からTバックの写真を選ぶ。送られてきたアドレスにメールを打ち込む。
『一度会いたいですね?プロフィールの飛田の桔梗という店におられるのですか?』
 打ち込んでワインをグラスに入れる。何だ?
『今客待ちでパソコンを開いていたの。嬉しい!ぜひ店に来て!来るときはここから日にちと時間を入れてください。私は顔見せには出ない約束なのです。幾つ?』
『23歳になりました。楓さんは?』
『一つ上よ』
『女装で行ってもいいのですか?』
『もちろん!でも玉を抜いても立つの?』
『結構役に立ちます』
『オナニーってする?』
『ええ、でもまだ穴に入れて貰える彼氏はいません』
 そうやって30分ほどメールのやり取りをしていて客が来たのでと別れた。




 

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再会の時5

 夜はおかんの店から戻ってきて10時から1時までパソコンでブログをやっている。女装日記はもう5年も続けている。今やベストテン入っている。入行してからは広告を貼るようになった。だが月に1万がせいぜいだ。へえ!こいつは初顔だな。
『私は女ですが見惚れました!私のブログにも遊びに来てください』
 コメントは多い時は更新ごとに5件ほど入ってくる。一応目を通すがコメント返しは滅多にしない。
 へえ!漫画を描いているのだな。私も大学時代からブログで何作か小説を書いている。少しエッチな奴だな?大胆な性描写もしている。だが生々しい。プロフィールを見る。黒のTバックに胸は手で押さえてえいる。美人だ。
『エッチですね!初めから読ませてもらいますね』
 思わずコメントを入れた。
 今日は同僚の静江と銀行が終わったら隠れて酒を飲みに行く約束をさせられた。両替の積み込みを手伝ってもらっているのだ。多い時は一日に5度も帰ってくるのだ。誰もが嫌がる仕事なのだ。私が携帯を入れと明細を聞いて帰るまで用意してくれるのだ。
 やはり予想通り8時前に終わった。急いで彼女が行っている喫茶店を覗く。ここも私の担当だ。私の姿を見たら出てきた。
「少し歩くがいいか?」
「ええ、いつも食事している店に?」
 おかんの店に入ると一番奥を2つ空けてくれている。
「可愛い彼女ね!」
「彼女じゃない。同僚だよ」
 私は大瓶で静江は青リンゴだ。
「私彼女にしてください」
「いや」
「彼女いるのですか?」
「女は苦手なんだ」







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再会の時4

 昭和町の店に通うようになった。初めは地下鉄に乗っていたが歩いてみてもそう遠くはないことが分かった。支店には新人の女子高生と私二人が配属された。女子高生は普通預金のテラー補助になり、私は係長について自転車で集金の見習いになる。
 大学時代は髪を伸ばして地毛で女装をしていたが、さすがに就職活動で短く切ったので鬘を使っている。係長に何度も帰りに飲みを誘われて断っているので意地悪をされている。1週間後には一人で集金をするように言われた。だがこの方が気が楽だ。係長の蒸せるような男臭さがむかつくのだ。
 この地方銀行は南大阪を中心に40店舗あり、下から数えて3番目にある。就職情報では将来は合併ありと出ていたが、私が受けた企業の24社から唯一内定が出たところだ。大学生で36名採用されたが成績は下から数えた方が早い。
「先輩お昼行きませんか?」
 待ち受けたように遅く帰ってきた私に女子高生が声を掛けて来た。彼女は同僚や先輩からは人気だ。背は低いが可愛いのだ。彼女がよく行っているというグリルに入る。ここは私の取引先だ。
「先輩ってどこに住んでいるのですか?」
「この近くだよ」
「私は松虫から通っているのです」
「松虫?」
「自転車で自宅から通っています。一度飲みに連れて行ってください」
 思ったより大胆だ。私はかえでと別れてから彼女と言うのを作ったことがない。だが男が好きでもない。
 集金から帰ってくると1時間かけてお金を集計する。一日に50件ほどを回る。朝に両替が7件ある。夜にも両替が8件ある。だから戻ってくるのは7時になる。それからお金を閉めて日誌を書くともう8時だ。
「前の休み彼女が来てた?」
 おかんが店に入ってくるなり言う。私の女装姿を見られたようだ。
「ああ、あれは姉だよ」
「そう。可愛いね?」








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再会の時3

 休みで目が覚めるとカーテンから太陽が覗いていて眩しい。それから1時間念入りに鞄の化粧品で入念に顔を作る。この習慣は退院した頃から始まって、母のいないとき化粧品を使って、大学時代は女装の仲間に入っていた。今回はお気に入りの服と下着と鬘を持ってきた。大学時代にはアルバイトの金を貯めてタイに手術に出かけた。もう竿だけになっている。
 女の子になると心が落ち着くのだ。もちろん父も母も知らない。最近にはブログも作って女装の写真を載せている。自分でも驚くほど化粧すると他人になる。もちろん本命は出していない。ただ女装仲間は分かっていてメールを入れてくる。
 マンションを出ると路地を商店街に向かう。右側には花街の通りがある。アーケードが始まるところに古物商の店がある。店の親父が不思議そうな目で見ている。
「飛田に来たんか?」
「いえ」
「ならカラオケか?」
 私は答えずピンク色の小型の冷蔵庫を指さす。
「それからこのテーブルと椅子は2脚でもいい?」
「ああ、どうせ3脚しかないからな」
「無料で運んでくれる?」
「場所は?」
 店の外に出て5階建て建物を指さす。
「おかんのマンションか?いいよ」
「502。4時でいい?」
 お金を払うとそのままアーケードの中を進む。おかんの店がもう開いている。その足で通天閣に向かう。
「おい、どうだ付き合わないか?」
 ほとんど男とは見られていない。最近は女性ホルモンで胸が出始めている。








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再会の時2

 配属が決まって本店から昼に支店長と昭和町という地下鉄御堂筋線の天王寺の隣街に行く。それで途中で携帯で女将に勧められていた住まいを決めると連絡を入れた。ワンルームだがまだ築5年のマンションだ。飛田の外側の街になる。彼女の祖母が持ち主で女将も1階に住んでいる。
 7時にマンションに行くと女将が来ていてくれて最上階の5階の部屋に案内してくれる。
「布団だけは入れといたよ」
 鍵を開けてくれたら布団と枕が積み上げられていた。窓は開けっぱなしになっていて春の気持ちいい枷が吹き込んでいる。
「カーテンは前の人が置いていったものだから気に入ったのが見つかったら変えるといいよ」
 花柄の女性ものだ。
「ここはね、飛田の女の子が住んでいたのよ。綺麗に消毒も済ませているわよ」
 窓から飛田の四角い屋根が連なって見える。
「荷物は?」
「この鞄だけです」
「落ち着いたら店においでよ」
「はい」
 小さいがトイレの中に風呂もある。ゆっくり使って9時には店に行く。思ったよりカウンターだけの店が満員だ。だが女将は一番端の親父を追い出す。
「おかん冷たいなあ」
「どうせまた店閉まるまでに来るんやろ?」
 女将はおかんと呼ばれているようだ。着物姿がよく似合う。母とは正反対の性格だ。横にいるだけで温かさが伝わってくる。私は常連客に中古製品の店の地図を描いてもらってその日は10時半に帰る。




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再会の時1

 久しぶりに大阪に戻ってきた。私は思わずオレンジ色空の駅に降りてふらふらホームの端に歩き出す。長らく私の心の中に眠っていた景色だ。今もあの病院の非常階段が見える。あれから12年が経ったのか。まるであの1年2か月の空白が夢のようだ。
 私は高校で浪人をして東京の私立大学に入った。妹は同じ学年で国立大学に入り、これを契機で家族は大阪から東京に引越しした。父は母に説得されて役所を辞め警備会社に転社した。その妹が同じ大学の男と学生結婚して男の故郷に帰ってしまった。私は大阪の地方銀行に希望して就職をしたのだ。
 母はまた男の故郷の新潟に行こうとして父と揉めている。私は蚊帳の外で飛び出すように大阪に出てきたのだ。1週間の研修が終わって明日には配属が決まる。
 あれから1年ほどかえでの夢を見て、よく魘されていたが時があの日々を遠いものにしていった。非常階段の周辺には桜が咲いている。今7人ほどの子供がいるようだ。もちろん今でもそこにいればかえでは24歳の大人になっている。不思議にかえでは今でもあの頃のままで記憶の中で眠っている。
 橙の電車が来て再び鞄を手に乗り込む。まだ配属の支店が決まらないので天王寺のホテルに泊まっている。この鞄の中にはあの頃の画帳も入っている。ホテルに戻ると背広を脱いで夕食に出る。新しいマンションの中を抜けると通天閣に出るとガイドブックに出ている。
 この辺りは飛田の花街がある。店の名前の看板が両側に続く。それぞれに入り口に若い女の子が座っている。ここを抜けたところに研修中に何度も来ている店がある。
「配属決まった?」
 女将が声をかける。
「いや明日に決まる」





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プロフィール

yumebito86869

Author:yumebito86869
もう記憶の中で小さくなってしまているが、
小さい頃病院で隔離されていた時期があった。
その時隣部屋にかえでと言う毛糸の帽子を被った少女がいた。
童貞を失ったのもかえでだ。
何もかもう失った時、私はすみれとして彼女と再会した。
また短い時間だったが私の中で一生光り輝いている。

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