すみれ9

 徐々に引継ぎが始まっている。だがまだ近場が中心で自転車で走っている。もう半月が経つのに父からは就職が決まったという連絡はない。それで心配になって10時にマンションに行くと伝えた。
「お金いけてるの?」
「預金を送ってもらったから」
 これは嘘だ。
「それにチラシを配る仕事を繋ぎでしている」
 それでも給料から3万を出して置いて帰った。今日は7時に平さんから飲みに誘われている。呼ばれた先は飛田の表通りの裏の路地にある小料理屋だ。
「若い人ね?」
 30歳くらいの女将だ。部屋はカウンターだけで10席程度だ。
「ここは働いている女や常連が来る。この裏通りから店にも入れる」
 確かに化粧した顔見せに並んでいるらしい女の子が軽食にビールを飲んでいる。
「この子は沖縄から来た私の親戚の子やがクォーターや」
「私の旦那様よ」
 親子ほど違う。
「この店は?」
「私が10年前に買った。20歳の時に訪ねてきて顔見せで働くと言うのでここでアルバイトで雇った。それが男と女の関係になった」
「奥さんと子供は?」
「42歳の時に別れたわ。出世しないとな。こういう生き方もある幸せだわ。みんな隠れた自分を持っているんや」
 3歳くらいの女の子が平さんの手を引っ張っている。すみれである私もそうだ。
 9時半におかんの店に行くともうかえでがおかんと楽しそうに笑って話している。






 



スポンサーサイト

テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

ページトップへ

すみれ8

 へえ!かえで凄いんだな。ブログの端の本は広告だと思っていたがかえでが出した漫画本だ。楓ではなくかえでで出している。もう3冊も出している。それに比べ私の小説は・・・。
「3時に通天閣の前に来れるか?」
 平さんに言われた。原付は1台しかないから自転車でこいでいく。私の集金の地域から30分ほどかかる。
「付いてこいや」
と私を見つけると原付をゆっくり押して路地に入ってゆく。通用口から階段を登ってノックをすると扉があく。中には大柄の70歳くらいの男が座っている。
「会長や」
「君が代わりの?」
「会長はここで5店舗串カツやをしている」
「集金を?」
「いや。会長がしている頼母子の手伝いや」
「頼母子?」
「会長は沖縄の出で私の先輩や。詳しいことはゆっくり教えるわ」
 私はそこで別れると銀行に戻って両替を運び銀行を出たのは8時半だ。すでに平さんの席は片づけられている。9時半にはおかんの暖簾をくぐる。私の席にかえでが座っている。
「姉さんの友達よ」
 おかんに言われて横に掛ける。
「どうした?」
「3時から9時に変えてもらった。でも顔見せはするわ。毎日ひろし君に会いたいから」
 かえでが私の腕を掴んでいる。おかんは吃驚して目をそらせる。










テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

ページトップへ

すみれ7

「出る前にちょっと支店長室来い」
 朝礼が終わって両替の袋を鞄い詰めていると支店長に呼ばれた。支店配属以来初めて話した。支店長室は2階にある。中に入るとしかめっ面の顔を上げる。
「仕事は慣れたか?」
「ええ」
「集金係りの平さんとは親しい?」
「いえ」
「彼は3か月後定年だ。引継ぎをしてもらいたい。だから今の取引先を少し整理して少しずつ平さんの集金先を教えても貰ってくれ。原付は乗れるか?」
「ええ免許は持っていますから」
「それと・・・彼は同じ取引先をもう17年も回っている。だが前の支店長からも不審な行動があると言われている。入金確認もしたが問題なかったが」
 部屋を出ると待っていた平さんが集金先のリストを無言で渡した。
 私は一番暇になる3時に私のマンションに5日ぶりに戻った。合鍵で開けると父のために買った中古の布団が綺麗に畳んであった。テーブルの上にハローワークの用紙が積みあがったままだ。冷蔵庫を開けると半ダースのビールはなくなっていて缶ビールが3本入っている。
 母からの手紙が届いている。父は私のマンションにいると伝えていたようだ。
『・・・お好み焼きを始めたけど赤字続きで預金は送れないわ。それに妹の主人が暗い人で店には出せないので私が鉄板を焼いている。お金はひろしに貰って』
と何とも冷たい事務的な返事だった。私はポケットから虎の子の1万札を手紙の上に広げて置いた。夫婦はこんなに冷たいものかと結婚には憧れはない。
 4時に銀行に戻って静江が用意してくれた袋を入れて自転車をこぐ。6時半に最後の両替を運ぶと1日は終わりだ。私に机の上に平さんが手垢だらけの地図を置いてもう帰っている。















テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

ページトップへ

すみれ6

 朝まで3度も抜いた。もう立ちもしない。さすがに二人が起きたのは太陽が真ん中に昇っている。
「今日は風邪ひきで休みを取ったよ」
「もうできないよ」
「映画に行かない?それからおかんの店に連れて行って?」
 これは小説の間に書いているブログを読んでいるようだ。
 二人で化粧を始めて4時半の映画に飛び込んだ。だがおかんの店でばれないだろうか?映画が終わったのは8時、それからぶらぶら商店街を歩く。かえではきっちり腕を組んでいる。9時に店の前に来る。父は外で飲んでいるだろうか。
「あれ、ひろし君の姉さんだったっけ?」
 私の定席に並んで座る。
「私の友達です」
「かえでです」
 どうやら気が付いてないようだ。大瓶を2本空けて3本目に入る。度々常連が話しかけるのをおかんが止めている。
「ここ気に入ったわ。私のところから近くだし。時々来ようかな?」
「強いな?」
「スナックで働いていた時に鍛えられたのよ」
「ひろし、いえすみれはいつから飲みだした?」
「大学時代に女装の仲間とよく飲んだ。みんな強いんだ。それよりお父さんと話でどうだった?」
「父と言っても他人だから。それにピルを使っているし。私の店にいる子は本当の父と何度もしていたと言っているわ。燃えるって言っていたわ」
「そんなものか?」
「ひろし来なかったね?」
 おかんが珍しそうに言う。11時でここは閉まる。私がお金を払おうとするがかえでがすべて払い済みだ。
「お金ないのでしょ?」








テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

ページトップへ

すみれ5

 かえでの了解を取って土曜の朝鞄を抱えてかえでのマンションに荷物を移した。恥ずかしいが夢の話もした。
「私なんか本当に2番の親父に入れられたよ。それで飛び出したのよ」
と受け入れてくれた。
 合鍵で開けて部屋に入って鞄を置く。かえでは爆睡していて起きない。かえでは一人寝る時はつるつるの頭のままだ。だが寝顔が可愛い。そっとキッスをして外に出る。
 父の泊まっているビジネスホテルのフロントにもう鞄を持って立っている。
「しばらく先輩のところに泊まる。冷蔵庫にはビールを半ダース買っている」
「ひろしはいないのか?」
「金はある?」
 これには即座に返事がない。
「母とは話した?」
 今度は父が黙っている。
 マンションに着くと部屋に上がって説明する。布団は余分に買って置いた。
「テーブルに地図とそこにハローワークの位置をマークしている」
「仕事が見つかったら出て行く」
「それより母から預金を送ってもらったら?」
 どうも父と話すのは苦手だ。テーブルの5万を置いて外に出る。これで来月は桔梗に行けそうもない。それにただで抱くのはどうかと思える。
「今日は早いね?」
 おかんの店を覗く。
「今日からしばらく親父が泊まります」
「いいよ。お父さんは飲みに来ないの?」
「親父は苦手なんです」
 9時に店を出てかえでのマンションに帰って布団に潜り込む。1時半に急に起こされて素っ裸のかえでが飛び込んでくる。
「仕事の後でもできるの?」
「そんなの関係ない」












テーマ : ファンタジー小説 -- ジャンル : 小説・文学

ページトップへ
プロフィール

yumebito86869

Author:yumebito86869
もう記憶の中で小さくなってしまているが、
小さい頃病院で隔離されていた時期があった。
その時隣部屋にかえでと言う毛糸の帽子を被った少女がいた。
童貞を失ったのもかえでだ。
何もかもう失った時、私はすみれとして彼女と再会した。
また短い時間だったが私の中で一生光り輝いている。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR