それぞれ7

 父が初めての給料で家賃を払った。借りていた金も少しずつ返すという。今は暇な時間は集金をしているそうだ。どうも平さんは銀行の社員にも金を貸しているようだ。それにかえでの言うのは飛田の女の子もかなりお客がいるらしい。
『なぜ保証人断るの?』
 10年ぶりの妹の声だ。私は妹の結婚式も呼ばれていない。彼女の中では兄はいないのだ。独断独走で走ってきたが、どうも結婚相手は失敗したようだ。いい大学を出た同士だが夫は社会的ではなさそうだ。妹を専業主婦にしたのはいいが研究所を辞めてしまった。そこから強引にお好み屋を思いついたがまた夫には合わない。辞めてぶらぶらして母が店に入っている。
『私たちは病院に入院した時から兄弟ではなくなったのだ。母を巻き込むな』
 原付を道路脇に止めて携帯を切る。
 これから通天閣の串カツ屋の会長と営業のリーダーの代理を合わせる。この代理は平さんの歓送迎会にも来ている。裏通りで待ち合わせをしてビルに上がる。
「長い付き合いだがそちらで借りたことはないが、今回は出物の建物が出てのだ。メインバンクは前回借入してまだ半年で融資はしぶられている。どうだ?」
 平さんは融資をしない。だから話があれば代理が出てくる。
「うむ」
 書類を見て代理が唸っている。金額が8億と大きい。
「建物を壊して立て直すときは付け替える約束はできている。1年あれば?」
「やってみましょう?」
 私は代理に声をかける。
「事前稟議を上げます」
と代理も頷いた。
 帰り代理がこれはお前が書けよ。と肩を叩く。






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それぞれ6

『あんた親の恩を忘れている!』
 朝一番叫ぶように携帯がかかってきた。母だ。携帯を掛けて来たのは初めてだ。父が断れなくて携帯を教えたのだろう。10分ほど喚き散らして切った。
「大変ねひろし君も」
 かえでが布団から顔を出して言う。病院で母を見ているからよく分かるようだ。最近はセックスを私の方が控えている。やはり見ていて調子が良くないのだ。
「店は当分休んだら?」
「それは言わない約束よ。私は精一杯余命を頑張る」
「分かった」
 最近かえでは朝私と同じに起きて朝食を食べる。それから寝ずにブログを描いている。私の方が追い付けないでいる。なぜかひどく急いでいるように見える。
「昨日店でお父さんに会ったよ」
「ああ、店で雇ってもらったのだ」
「たまに抱いてあげようかな。ひろし君が抱いてくれないから」
「ダメだ」
「それと雑誌社から今の新作課金にしたらどうだって?」
「課金?」
「有料にするって」
「見てもらえるのかなあ?」
「大丈夫だって」




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それぞれ5

 無事に平さんが退職となった。私は原付に乗って集金に回る。すみれとかえでのコラボ漫画もスタートして1週間になる。今まで以上のアクセスが上がっている。結局いろいろあって平さんの歓送迎会は行われなかった。それで今日内緒で有志だけのささやかな飲み会を飛田の平さんの店でやる。
 世話人代表は掃除のおばさんで外勤から3人、内勤から2人しか集まらなかった。7時からだが私は30分遅れて店に着いた。私の席は静江が確保している。それでも平さんは気を使って貸切にした。私を待っていてくれたのか乾杯のビールが今出てきた。もう父がワイシャツ姿でビールを運んでくる。平さんは約束を守ってくれたのだ。
「これは嫁だ」
 初めて平さんが頭を掻いて紹介した。へえ!と言うため息が漏れる。出世でくたびれたサラリーマンより幸せっだように思う。女将が子供連れて席に着く。
「なんかいいな」
 静江が私に相槌を求める。私は皿を運んできて下げる父ばかりが気にかかる。何とかなればな?
「どうですか?」
「もう1週間になるが慣れたようやな。朝11時から8時まで入ってもらっているわ。店が慣れたら間に集金を頼む」
 平さんに酒を注ぎながら話す。
「私の仕事手伝うなら金出すよ」
「いえ、私は頼母子にはかかわりませんよ」
「分かった」
 10時まで飲んだ。父はもう姿が見えない。遅くなったので私が静江を送ることになった。もうバスがなくなっているからタクシーを捕まえようとしたが静江が歩くといい張った。松虫の家の近くまで来ると彼女から唇を吸ってきた。





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それぞれ4

 久しぶりに静江をグリルに誘う。両替の手伝いに対してお昼を奢ると約束している。
「次長が私に串カツ屋の集金を聞いていたよ」
 もう集金は私に代わっている。私にも容疑をかけているのだろう。
「ね、日曜日映画行かない?」
「いや、用事がある」
 彼女は銀行では人気がある。こうしてグリルに行くだけでいらぬ噂をたてられている。別れると両替を届けに回る。4時には父とマンションで会う。
「迷惑かけたな」
 缶ビールがテーブルの上にある。これはかえでを抱いたことへのお詫びのようだ。
「彼女もよかったと言っている。ところで今日は仕事の話だよ」
 簡単に平さんの説明をした。明日にでも行くという。缶ビールの横に手紙がある。私は手に取ると中を読む。母からだ。お好み焼き屋は赤字続きで1千万の借り入れを銀行から借りるので私に保証人になれということだ。封筒の中に融資申込書が入っていて保証人欄に印が入っている。まことに母らしい。父は黙って申込書を破る。
 おかんの店には9時半に行く。またおかんの親父がかえでの横にいる。おかんが追い払うように席を開ける。最近は早く終わるようになっている。かえでは鞄の中からノートパソコンを出してくる。
「提案よ。次の作品は二人でやらない?」
「絵は描けないよ」
「すみれとして文章を書くの。絵は私が描く。昔やったような交換絵物語よ。私のブログにすみれも入れるようにしたわ」
 かえではプロフィールのところに二人で撮った黒のTバック姿を貼り付けている。





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それぞれ3

 昼に支店長室で本店の年配の検査役と面接だ。朝は平さんが半日面接を受けていた。
「彼は否定しているが君はどうだ?」
「私は引き継いで間がないのでよくわかりません」
 結局これが私の答えだ。だが感じているものがあるがそれを口にすべきではないと思っている。終わると昼を抜いて自転車で飛田の平さんの店に走る。
「どうだった?」
 平さんが椅子に掛けてお茶を飲んでいる。
「支店長も、検査役も取引先に会って確認する気はありません。何しろ大口先ですから」
 ヒヤリングだけで取引は切れ賠償金を求められるかもしれないのだ。あくまでも内々のことで解決したい。
「君には真実を話すよ」
 彼女が心配そうにコーヒーを入れてくれる。店には客はいない。
「串カツ屋の会長の通帳から始め毎月5百万をこちらの頼母子の支払いに使っていた。会長は残高しか見ない。それがいつの間にか2千万になった。だが去年からもう繋ぎ資金は必要ではなくなった」
 それも調べて分かっている。この店を買って苦しかった時期は終わっている。こちらの頼母子も手持ち資金で賄えるようになり、小口の貸金も始めている。
「要求はあるか?」
「今この店でアルバイトの店員を募集していますね?」
「ああ、店の洗いと私の方の集金をしてもらおうと」
「親父を雇ってもらえませんか?」
「履歴書を持ってきてもらおうか?」
 話が終わった時に女の子が3人入ってきた。その一人が楓だ。かえでは気づいているが声をかけない。







 

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プロフィール

yumebito86869

Author:yumebito86869
もう記憶の中で小さくなってしまているが、
小さい頃病院で隔離されていた時期があった。
その時隣部屋にかえでと言う毛糸の帽子を被った少女がいた。
童貞を失ったのもかえでだ。
何もかもう失った時、私はすみれとして彼女と再会した。
また短い時間だったが私の中で一生光り輝いている。

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