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それぞれ11

 7時半に来るようにと平さんからメールが入った。私は急いで集金の集計をして袋に詰める。静江たち女性陣が帰って支店長が店を出る。7時10分私が慌てて裏口から出る。急ぎ足で飛田の表通りを抜ける。5分前に着いたようだ。店の端で父とかえでが何やら書類を渡している。
「悪いこと相談してないか?」
「お父さんに言う言葉ではないよ」
 かえでが睨む。父は慌てて書類をまとめて炊事場に入る。表に車が止まった音がしてドアが開く。常務が一人入ってくる。平さんが迎えに出ている。
「ここは若い子が増えたな?」
「紹介するよ」
「昔はよく来たな」
 常務がかえでを指名したらどうしようと思っている。だが常務は私に握手を求めて席に掛ける。
「あの串カツ屋君の店の柱になるぞ。あの店が伸びないのは柱になる取引先がないからさ」
 ビールをママが運んでくる。
「どうや。金融は?」
「ボチボチや」
 二人はやはり同期だ。金融の話もしているようだ。常務は業務推進部長だ。
「今度はブロックごとに競争をやる。君の店は小型店いや閉鎖候補グループだ。7店のうちどんべを廃店をする」
「早く辞めてよかったな」
 平さんと常務は正反対の性格だが気は合う。2時間かっきりで常務はタクシーでまたミナミに走る。私の融資を祝ってくれてようで支払いは常務が払った。入れ替えにかえでが2人で入ってきた。今日はここで飲むと決めていたのだ。
「彼女フィリッピン。可愛いでしょ?まだ17歳よ。この近くのアパートに5人で住んでいるよ」
「かえでの恋人?」
「彼女なの」
と二人で撮った写真を見せる。
「凄い美人!」




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それぞれ10

 朝10時に8億の融資実行の日支店長が自分が決裁したかのように応接室で会長と握手する。両替配達を済ませて戻ってきて汗を拭いながら私は司法書士と登記の確認をする。応接は開かれていてカウンターにかえでがどうしたわけか静江と話している。彼女は口座を別の銀行で持っている。
「実行のお金入れたよ」
 静江が通帳を渡す。串カツ屋の株式会社の通帳は初めて作った。今までは会長の個人口座だけだった。小さな声で、
「凄い綺麗な人ね?」
 これはかえでを指しているようだ。初めてかえでと静江が会った。かえでには静江の話は同期だと話している。
 夜おかんお店にかえでがいつもより遅く10時に来た。
「最後に常連が入ったの」
 彼女の客はほとんどブログから来る常連ばかりだ。古いブログではエッチな会話を載せていたが、最近はコメント返しをしないと宣言している。
「可愛い子ね?」
「どうして来たんだ?」
「ひろし君の初融資を見たかったし、私のお金こちらに移し替えることにした」
 最近はかえでは身の回りを整理し始めたような気がする。
「彼女ひろし君を見る目愛してるわよ」
「いや、両替を手伝っても立っているんだよ」
「将来結婚したらいいよ」
「なぜそんなこと言うのだ」
「だって私もうそう生きられないから。バトンタッチしないと」
「だから籍を入れよう」
「籍も入れないし子供も作らない」






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それぞれ9

 かえではもう私が銀行を辞める気でブログですみれと専業で漫画描くよと言っている。二人の絵物語は課金にしたが思わず人気だ。これは従来の漫画と言うより私の文章を前に出した童話の世界になっている。かえでのパソコンの中にはすみれが書いている小説の挿絵がどんどん挿入されている。
「今夜は退職祝いをおかんの店でしようよ」
 この調子で朝送り出された。それで妙に融資の件は腹が括れた。本店で否決されたらされたら辞表を出して会長に謝りに行こうと決めた。
 午前中に午後の分も頑張って集金を済ませる。3時から1時間半を串カツ屋のために空ける。代理は融資の件から顔を合わせようとしない。一人で謝りに行くしかない。静江とグリルで約束のように1週間に一度昼食を奢る。いつものように私が早く戻ってきて両替の袋を鞄に詰める。
「おい、融資部長からだ」
 次長が呼ぶ。あまり何度も稟議が出るので判を横に押して次長と支店長が本店に稟議を送った。次長が受話器を差し出す。稟議の説明ができないのだ。
「この融資期間1年は守れるだろうな?」
「はい。建物の解体と表示登記が済めばメインバンクが長期融資で」
「決裁だ」
「融資してもいいのですか?」
「そうだ。この件では常務にお礼の電話をしておくんだ」
 常務?教えられた常務の内線に入れる。
「君か?よくできていた。平さんの後輩だそうな?また夜の平さんお店で飲もう」
 夜おかんの店でかえでに伝えると、
「なんだ」
と失望した声を上げた。でも握手を求めてきた。




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それぞれ8

 支店長は融資に二の足を踏んだ。リスクを負いたくないというタイプだ。銀行員に多いタイプだ。そうして定年前にようやく小型店舗の支店長となった。代理も歯切れが悪い。それで私の名前で稟議を上げることになった。それでこの3日間は9時半まで残業している。
 今日は次長に稟議の判も押されずに机に戻されてきた。
「断るならもう限界だ。謝って来い」
 次長も輪をかけて新しいことを嫌う。書類を鞄に入れて仕方なく集金に回る。さすがに一度串カツ屋の会長を訪ねようとも考えた。昨夜その話をかえでにしたら辞めたら私が食べさせてあげると言われた。これでは情けない紐だ。
「どうした暗い顔をしているぞ」
 平さんが入ってきた私の肩を叩いた。平さんは退職してから逆に元気になっている。それで今回の融資の話をした。
「会長が融資の話をしたのは初めてやな。書類を見せてくれるか?」
 平さんが書類を見ている横に父が集金から戻ってきて洗い場に入る。かえでは何度かこの店で父と会っている。かえでは父が気に入っているのか店に来てほしいと言っている。
「一度本店の常務に話してやろう」
「常務?」
「同期なんだよ。同じ店で働いたこともある。この店にも時々飲みに来るわ」
 その夜また稟議を書き直して次長の机に置いて帰る。
「どう?」
 おかんの店に行くと先に来ていたかえでがそう聞く。
「少し意地になってきた」
「今日抱いてあげるよ。そうお昼にお父さんと話をしたよ」
「まさか?」
「下の口の話じゃないよ」




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それぞれ7

 父が初めての給料で家賃を払った。借りていた金も少しずつ返すという。今は暇な時間は集金をしているそうだ。どうも平さんは銀行の社員にも金を貸しているようだ。それにかえでの言うのは飛田の女の子もかなりお客がいるらしい。
『なぜ保証人断るの?』
 10年ぶりの妹の声だ。私は妹の結婚式も呼ばれていない。彼女の中では兄はいないのだ。独断独走で走ってきたが、どうも結婚相手は失敗したようだ。いい大学を出た同士だが夫は社会的ではなさそうだ。妹を専業主婦にしたのはいいが研究所を辞めてしまった。そこから強引にお好み屋を思いついたがまた夫には合わない。辞めてぶらぶらして母が店に入っている。
『私たちは病院に入院した時から兄弟ではなくなったのだ。母を巻き込むな』
 原付を道路脇に止めて携帯を切る。
 これから通天閣の串カツ屋の会長と営業のリーダーの代理を合わせる。この代理は平さんの歓送迎会にも来ている。裏通りで待ち合わせをしてビルに上がる。
「長い付き合いだがそちらで借りたことはないが、今回は出物の建物が出てのだ。メインバンクは前回借入してまだ半年で融資はしぶられている。どうだ?」
 平さんは融資をしない。だから話があれば代理が出てくる。
「うむ」
 書類を見て代理が唸っている。金額が8億と大きい。
「建物を壊して立て直すときは付け替える約束はできている。1年あれば?」
「やってみましょう?」
 私は代理に声をかける。
「事前稟議を上げます」
と代理も頷いた。
 帰り代理がこれはお前が書けよ。と肩を叩く。






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プロフィール

yumebito86869

Author:yumebito86869
もう記憶の中で小さくなってしまているが、
小さい頃病院で隔離されていた時期があった。
その時隣部屋にかえでと言う毛糸の帽子を被った少女がいた。
童貞を失ったのもかえでだ。
何もかもう失った時、私はすみれとして彼女と再会した。
また短い時間だったが私の中で一生光り輝いている。

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