新生活7

 常務と打ち合わせをしてここ3日提案書を作っている。だが今日は修正を言われて書き直している。10億の手形貸し付けとしたが30億にしろと×を付けられた。この融資で全店の融資最高額を調べて、30億を超える先が3社しかない事実にぶつかった。だが常務はだからこの銀行が伸びないのだと言われた。
 それで銀行を出たのは9時を過ぎていた。帰り道におかんの店を覗いたら暖簾の隙間から指定席に座っているともこと代理が見えた。マンションに戻ると炬燵にもたれたまま眠っているかえでがいた。一瞬嫌な予感がして揺り動かしてしまった。
「死んだと思った?」
「いや」
 最近は常に心のどこかにかえでが死ぬと言う恐怖が芽生えてしまっている。
「姉さんどうだ?」
「初めて恋をしたと喜んでいたよ。でも仕事は続けると言っていた」
「今日もおかんの店にいた。代理はバツ1だから心配はないけど、あれで猛烈社員だからなあ」
「姉さんも私と似たところがあるの」
「病気?」
「姉さんは病気じゃないよ。でもね、セックスに目覚めたようなの。私はひろし君と会ってセックスに目覚めた」
「かえですみれを作ったな」
 かえではパソコンを開く。
「このファイル覚えておいて。ここに遺言を書いている。思いつくごとに書き足している」
「やはり死ぬのか?」
「余命と言われてここまで生きてきた。すみれと別れるのは辛いけど、もう満足しているよ。だから悲しまないで」
「読んでもいいのか?」
「分からないことがあれば聞いてよ」
と言いながら私にもたれてもう眠っている。








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新生活6

「姉さんもよかったねえ」
 ともこのことを話したらかえでが言った。
「朝ここに来てくれるから伝言ある?」
「知っていた?」
「いえ、夜にかかってきた。その彼にひろし君が会っていると」
「姉さんもよかったって言っておいて。ただ私がすみれだとは言わないで」
「それとDVD作ることにしたから」
「分かった。金を儲けてたらすべて買い戻す」
 手を上げてドアを出る。
 銀行に出ると代理は少し恥ずかしいのか先に原付で出て行く。今日は支店長の常務と同行だ。だから原付ではなく運転手付きの自家用車に乗る。あのテナントビルの社長と合わせることになった社長室に入ると、親を若くしたカニ体形の男がファイルを持って座っている。
「取引に出かけているので少し待ってください」
と名刺を出す。やはり息子だ。金融会社の専務の名刺を出す。
「社長からファイルを見てもらうようにと」
 私は受け取って常務に見せる。これは金融会社の会社資料だ。テナントビルの社長が兼務している。思ったより融資量が大きい。総借入が500億だ。競合している銀行の名前がある。常務の目がやはりそこを見ている。80億を融資している。その時社長がジャンバー姿で入ってきた。
「すいませんな。ビルの立ち合いでしてな。まず金融の方から付き合いできるかと?」
「この銀行の借り入れについて説明してください」
 常務が言うと、息子がコピーを取ってきて1時間説明する。
「提案書を持ってきますから時間をください」
 横にいる私が圧倒される常務の気迫だ。







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新生活5

「DVDの制作会社からあれを再編集して発売したいと連絡があったよ」
 朝出る時にかえでから話が出た。
「もう撮影する体力はないよ」
「分かってる。詳しくはメールを送っておくから」
 新店舗開設はいよいよ後半に突入した。本店扱いで融資も取り扱う。串カツ屋の会長のミナミ店の融資を1億2千万を受けることになった。この際前の店から取引を移転する承諾も取った。頼母子の個人は残すこととした。代理も融資を始めて件数も金額もトップだ。
 8時半に書類をファイルに綴じこんで仮店舗の裏ドアを出る。まだ半数は残っている。歩いていると背中をポンと叩かれた。
「代理久しぶりですね?」
「今日は付き合ってほしいんだけど?」
と言って久しぶりにおかんの店の暖簾を潜る。
「私は内緒にしているがバツイチでもう1年が経っている」
「奥さんがいると?」
「銀行では信用にかかわるから言ってないけど、常務には話している」
「で私に話して?」
「まあ、1杯飲んでからだ」
 おかんが笑いながらビールを抜いてくれる。
「実は姉さんと付き合っている」
「姉さんの仕事知っています?」
「ああ、桔梗に3度出かけた」
「私にどうこうする力はないですよ」
「ともこさんは君に内緒でいるのは辛いと」








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新生活4

 代理はやはり口座数トップで折り返し、私は予想通りどんべに位置している。あの日から代理は帰りに飲みに誘わなくなった。それでおかんの店にもしばらく行っていない。今日はともこが午前中にかえでの病院に付き合ってくれた。それで少し早目に銀行を出てともこの店に行く。かえでの病状を聞くためだ。
 8時半に平さんの店に入る。ともこには桔梗が引けたら覗いてくれとメールを流した。珍しく父がこの時間も炊事場にいる。
「どうした?」
「お金お金と言われるので9時まで延ばしたんや。この時間ならともことも会えるからな」
「ともこはここでよく飲むのか?」
「最近は忙しいので寄らんがな」
 ビールを1本空けた頃にともこが忙しそうに入ってきた。
「今日は悪かったな」
「かえではひろし君の彼女やからね。貧血は続いているようだけど、とくに先生は何も言うてないよ」
「姉さんも飲まないか?」
「少し人を待たせているから」
 もう立ち上がって出て行く。その後着替えて父が出てくる。
「熱燗がいい?」
「もらうよ」
「姉さんうまくいってるのか?」
 父はうまそうに熱燗をコップで飲む。平さんが2階から降りてくる。
「この前はすいませんでした。口座も作ってくれました」
「ああ気にするな。ともこさんも楓として人気やぞ。一度店訪ねるかなあ」
「あんた何言ってるの」
 女将が平さんの頬っぺたを抓る。
「彼女彼氏が出来たかも?」














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新生活3

 3月には日本橋の支店予定地に近くに準備室が移る。口座作成が始まっていて案の定私はどんべで代理がトップだ。だがやはり帰りは代理が飲みに誘う。毎日のようにおかんの店に寄って帰る。今日は代理誘いを断って7時に店をでて平さんと難波のスナックで会う。
「いやあ、大変だろう?」
 同じ銀行員なので新店はしんどいと知っている。それで頼んでいた取引先を紹介してくれるのだ。隣にはカニのような体をした華僑が座っている。この人の会社は調査して知っている。もう何度も訪問したが会ってもらえないでいる。ミナミでは地元で1位、2位を争うテナント業者だ。子会社で金融もやっている。
「この名刺は何度も見ている」
「この社長は通天閣の串カツ屋の会長と昔共同経営をしていたのだ。今も会長の大口の頼母子の親でもある」
「会長は飲食から離れられなくてなあ。儂は初めは頼母子の金を使ってビルを買ったわ。いつの間にかミナミでは11棟持つことになった。金融は息子がやっているが実は平さんを番頭に呼んだが断られた。口座は開いてやるが融資は難しいぞ」
 1軒目で別れて平さんと社長は2軒目に出かけた。ここからぶらぶらと通天閣に向かって歩く。まだ9時にはなっていない。おかんの店の暖簾を潜る。いつもの指定席に代理とともこが座って笑って飲んでいる。私は思わす暖簾から出てマンションに帰る。
 この時間ならかえでは寝ているだろうなと鍵を開ける。
「ひろし君帰ってきた?」
「どうしてわかった?」
「何だかそんな気がした。久しぶりにビール飲む?」
 かえでがビールを入れてくれる。それから箪笥からピンクの毛糸の帽子を出してきて被る。普通は二人でいる時は鬘を付けていない。1本を空けるとかえでが唇を吸ってきた。
「あと何回出来るかなあ」










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プロフィール

yumebito86869

Author:yumebito86869
もう記憶の中で小さくなってしまているが、
小さい頃病院で隔離されていた時期があった。
その時隣部屋にかえでと言う毛糸の帽子を被った少女がいた。
童貞を失ったのもかえでだ。
何もかもう失った時、私はすみれとして彼女と再会した。
また短い時間だったが私の中で一生光り輝いている。

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